シガー テイスティングノートの読み方──10年バーテンダーが教える評価軸
シガー テイスティングノートを読みたい・書きたい人へ。銀座シガーバー10年バーテンダーが、5つの評価軸(外観/香り/味わい/燃焼/余韻)、専門用語(リガ・ヴィトラ・ピリ・ナットネス)、産地別の典型ノート、自分でつけるテンプレートまで実体験で解説。
宮本 雄一 シガー&ウイスキー専門家
公開: 2026年6月27日 更新: 2026年6月27日
「この葉巻、よかった気がする」
10年カウンターに立っていた頃、私はこの言葉を客から数千回聞いた。だが、その「よかった」が何を意味するのか、言語化できる人は10人に1人もいなかった。
葉巻の世界には、ワインと同じく テイスティングノート という文化がある。1本の葉巻を5つの観点で評価し、記録する手法だ。これを身につけると、「よかった気がする」から「マカヌード ホイドのナッツ感と、中盤のクリーム感が好み」へと言葉が変わる。そして次の1本を選ぶ精度が劇的に上がる。
このページでは、10年カウンターで500本以上のテイスティングノートを取ってきた私が、「シガー テイスティングノートの読み方と書き方」を綴る。シガーアフィシオナド誌が使う評価軸を、初心者にも分かるように噛み砕いて解説する。

シガー テイスティングノートの5つの評価軸
世界の葉巻専門誌(シガーアフィシオナド誌・シガージャーナル誌)が標準化している評価は、5つの観点に集約される。
1. 外観(Appearance)
葉巻を吸う前の、視覚と触覚の評価。
- ラッパー(外側の葉)の色: ダブル・クラロ(薄黄)/クラロ(淡褐)/コロラド(赤褐)/マドゥーロ(暗褐)/オスクーロ(黒褐)
- 巻きの状態: 均一性、皺の有無、シーム(合わせ目)の見えやすさ
- 手触り: 弾力、硬さ、湿度感
- 重量感: 同サイズ葉巻との比較
「マカヌード ホイドはクラロでシームがほぼ見えない、弾力中程度」のように書く。
2. 香り(Aroma / Pre-light & Lit)
火をつける前と後で、香りが変わる。
- プレライト香: 葉巻に火をつける前の、ラッパーから漂う香り
- コールドドロー: 火をつける前に口に吸い込む冷たい煙の風味
- ライト後香: 火をつけた瞬間の立ち上がりの香り
香りを表現する語彙:
- 蜂蜜、メープルシロップ、糖蜜(甘さ系)
- 革、コーヒー、ココア、土(深み系)
- 杉、シダーウッド、白檀(木質系)
- 胡椒、シナモン、クローブ(スパイス系)
- ナッツ、ヘーゼルナッツ、アーモンド(ナッツ系)
「プレライトで蜂蜜とシダー、ライト後は革とコーヒーが立ち上がる」のように記録する。
3. 味わい(Flavor)
最も重要な評価軸。時系列で記録する。
- 最初の3口: 第一印象、立ち上がりの味
- 中盤(1/3~2/3): 葉巻の本領、最も特徴が出る時間帯
- 最後の3口: 終盤の風味、変化の有無
味を表現する語彙は香りと同じ系統を使うが、より細分化:
| 系統 | 軽め | 中庸 | 重め |
|---|---|---|---|
| 甘さ系 | 蜂蜜 | キャラメル、トフィー | 糖蜜、ブラウンシュガー |
| 深み系 | コーヒー(軽煎り) | ココア、ダークチョコ | 革、燻製、土 |
| 木質系 | 杉、シダー | 白檀、オーク | スモーキー |
| スパイス系 | 黒胡椒 | シナモン | クローブ、カイエンペッパー |
| ナッツ系 | アーモンド | ヘーゼルナッツ、ピーカン | ローストナッツ |
4. 燃焼特性(Burn / Draw)
葉巻の品質を測る客観指標。
- 燃焼の均一性: 灰が水平に進むか、片寄っていないか
- 灰の色と形: 白っぽい灰(高品質)/黒っぽい灰(低品質)、長く保つか
- ドロー(吸い心地): 吸引抵抗の適切さ
- タッチアップ頻度: 燃焼補正で再点火が必要だった回数
「燃焼均一、白灰で2-3cm保持、ドローはやや軽め、タッチアップ0回」のように記録。
5. 余韻(Finish / Aftertaste)
吸い終わった後、口の中に残る風味の質と長さ。
- 長さ: 短い(10秒以下)/中庸(10-30秒)/長い(30秒以上)
- 質感: 滑らか/ドライ/油っぽい
- 残る風味: 何の風味が最後まで残るか
「余韻30秒、ココアとコーヒーが滑らかに残る」と書ければ完璧。
シガー テイスティング 専門用語7選
業界誌を読むときに必要な、最低限の専門用語。
1. リガ(Liga)
葉巻のフィラー(中身)に使われる葉のブレンド構成を指す。例:「リガ・プリヴァダ」(コーアバの主要シリーズ)はキューバの特定産地ブレンド。
2. ヴィトラ(Vitola)
葉巻のサイズと形の組み合わせ。詳細は葉巻 種類とサイズ完全ガイドで解説したが、ロブスト/コロナ/チャーチル等の総称。
3. ピリ(Peri)
胡椒のような刺激。「ピリのある葉巻」と書いてあれば、シャープなスパイス感がある葉巻を意味する。ニカラグア葉巻の典型的特徴。
4. ナットネス(Nuttiness)
ナッツ系の風味の強さ。ドミニカ産マカヌードなどに典型的。
5. ボディ(Body)
葉巻の 濃さ/重さ。Light(軽い)/Medium(中庸)/Full(重い)の3段階。これは「強さ」ではなく「味の濃さ」を指す。
6. ストレングス(Strength)
葉巻の ニコチン強度。Mild(穏やか)/Medium(中庸)/Strong(強い)。ボディと混同しがちだが別概念。
7. コンプレキシティ(Complexity)
味の 層の多さ・変化の豊富さ。「コンプレキシティが高い」=最初・中盤・最後で味が大きく変化する葉巻。コーアバ シグロVIの典型的評価。
産地別の典型テイスティングノート
10年提供してきた経験から、産地別の「典型的なノート」を整理する。
キューバ葉巻の典型
ボディ: Medium-Full
ストレングス: Medium-Strong
味の系統: 蜂蜜 → 革・ココア → ナッツ・スパイス
コンプレキシティ: 高
余韻: 30秒以上、滑らか
詳細はキューバ 葉巻 おすすめランキング7銘柄を参照。
ドミニカ葉巻の典型(マカヌード等)
ボディ: Light-Medium
ストレングス: Mild-Medium
味の系統: クリーミー → ナッツ → 軽い甘さ
コンプレキシティ: 中
余韻: 15-20秒、ドライ
ニカラグア葉巻の典型(パドロン等)
ボディ: Full
ストレングス: Medium-Strong
味の系統: コーヒー → 土・革 → ピリのあるスパイス
コンプレキシティ: 高
余韻: 25-40秒、油っぽい
ホンジュラス葉巻の典型
ボディ: Medium
ストレングス: Medium
味の系統: 杉・シダー → スパイス → 軽いココア
コンプレキシティ: 中
余韻: 15-25秒、滑らか
自分でつけるテイスティングノート テンプレート
10年で500本書いてきた私の標準テンプレート。コピーして使ってほしい。
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銘柄: ___________________________ ヴィトラ: __________
産地/メーカー: __________________
購入: __________________ 価格: ¥ __________
喫煙日時: 20__/__/__ __:__ 喫煙場所: __________
合わせた酒: __________________
ヒュミドール条件: 温度 __℃ / 湿度 __%
喫煙時間: __ 分
【外観】
ラッパー色: ____ 巻き状態: ____ 弾力: ____
【香り】
プレライト: __________________________________
コールドドロー: __________________________________
ライト後: __________________________________
【味わい】
最初の3口: __________________________________
中盤: __________________________________
最後の3口: __________________________________
【燃焼】
均一性: ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ドロー: 軽い / 適切 / 重い
タッチアップ回数: __回
【余韻】
長さ: __秒 質感: __________
残る風味: __________________________________
【総合評価】
ボディ: L M F
ストレングス: Mild Medium Strong
コンプレキシティ: 低 中 高
総合スコア: __ / 10
【自分の好み度】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【コメント・次回への引き継ぎ】
__________________________________________
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これを20本続けると、自分の好みが明確に見えるようになる。
テイスティングノートを書く3つのコツ
10年で500本書いてきた経験から、続けるコツ:
コツ1: 「正解」を探さない
業界誌のレビューと、自分のノートが違っていても気にしない。葉巻は主観の世界。シガーアフィシオナド誌が94点をつけても、自分が7/10でも、それで正解。
コツ2: 必ず「合わせた酒」を記録する
葉巻は単独でなく、合わせる飲み物で印象が大きく変わる。シングルモルト/コニャック/コーヒーで全く別物に感じる葉巻もある。これもシングルモルト 入門を参照。
コツ3: 「次回への引き継ぎ」を必ず書く
「もう一度吸いたい」or「もう吸わない」を明記。半年後にノートを見返したとき、選び方の精度が劇的に上がる。
業界誌のレビューを読む
自分でノートを取り始めたら、業界誌の評価も読めるようになる。
信頼できる業界誌
- シガーアフィシオナド(Cigar Aficionado): 米国・1992年創刊、最も権威ある評価誌。100点満点
- シガージャーナル: 米国・蓋然性ある評価
- シガースナップ: 日本語の専門誌(年4回発行)
これらの誌の評価を、自分のノートと比較すると、味覚の精度が高まる。
結びに──テイスティングノートは葉巻趣味の深さ
シガー テイスティングノートは、葉巻趣味を 「消費」から「鑑賞」に変える ツールだ。
吸って消えるだけの葉巻が、ノートに書くことで「自分の経験」として残る。10年後、20年後に見返したとき、それは葉巻と過ごした時間の記録になる。
私の手元には、10年で500本以上のノートがある。そのうち何冊かは、もう買えない希少銘柄の記録だ。それらは、お金では買えない価値を持つ。
このページが、あなたの最初の1本目のテイスティングノートのきっかけになれば、幸いだ。
参考資料
- Cigar Aficionado(シガーアフィシオナド誌) — 世界最大の葉巻専門誌・100点満点の評価基準
- HABANOS S.A.(ハバノス)公式 — キューバ葉巻のヴィトラ・リガの正規情報
- 葉巻(Wikipedia) — 葉巻の構造と専門用語の包括解説
次に読む
- 葉巻 初心者おすすめの最初の3本:テイスティングノートを書く最初の3本
- キューバ 葉巻 おすすめランキング7銘柄:産地別の典型ノート
- 葉巻 種類とサイズ完全ガイド:ヴィトラの読み方
- シガーバー 東京 初心者ガイド:プロのテイスティングを学ぶ場
- ヒュミドール おすすめ5選:保管条件もノートに記録
「大人の趣味」では、本物志向の道具と長く付き合う知恵を、専門家5名が綴っています。編集方針はこちら。
よくある質問
- Q. シガー テイスティングノートとは何ですか?
- 1本の葉巻を5つの観点(外観・香り・味わい・燃焼特性・余韻)で評価し、記録した文章のことです。ワインのテイスティングノートと同じ構造で、シガーアフィシオナド誌・シガージャーナルなど世界の専門誌が標準化しています。自分で書くことで、葉巻の好みを言語化できるようになり、次の1本を選ぶ精度が上がります。
- Q. シガー テイスティングノートの主な専門用語を教えてください。
- ①「リガ(Liga)」=フィラー(中身)のブレンド構成 ②「ヴィトラ(Vitola)」=サイズと形 ③「ピリ(Peri)」=胡椒のような刺激 ④「ナットネス(Nuttiness)」=ナッツ系の風味 ⑤「ボディ(Body)」=濃さ/重さ(軽い/中庸/重い)⑥「ストレングス(Strength)」=ニコチン強度 ⑦「コンプレキシティ(Complexity)」=味の層の多さ、の7つを覚えると業界誌が読めるようになります。
- Q. テイスティングノートに必要な道具はありますか?
- 必須はノートとペンだけです。あると便利なのは、①温湿度計(ヒュミドール条件確認)②時計(喫煙時間記録)③専用テンプレート(市販の「シガーレビューシート」or 自作)。葉巻1本に30-90分かけるので、書く時間も確保したい人は別途タブレットメモアプリでも構いません。私は紙のモレスキンに10年で500本以上記録してきました。
- Q. 自分の好みを言語化するコツは?
- 3つあります。①「強さ・甘さ・香り」の3軸で10段階評価する(数値化)②「最初の3口・中盤・最後の3口」の変化を別々に書く(時系列)③「合わせた酒・食べ物」と組み合わせ評価を残す(ペアリング)。これを20本続けると、自分が「甘め×中庸」「強め×複雑」のどちらが好きかが明確になり、選び方が変わります。
About the author
宮本 雄一
シガー&ウイスキー専門家・銀座シガーバー バーテンダー 10年
銀座のシガーバーで10年バーテンダー、現在は独立してコンサル業務。シガーソムリエ資格保有。葉巻とウイスキーの両領域を横断する数少ない実務家。
Editor's note
編集後記とエッセイは、note で。
サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。