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経営者 時計──プライベートバンカー20年が、現場で見た選択の論理

経営者 時計を選ぶ人向けに、メガバンクのプライベートバンキング部門で20年富裕層顧客を担当してきた元バンカーが、現場で見てきた経営者の時計選びを語る。年商との相関、派手系・地味系の傾向、最初の一本のタイミング、取引先への印象まで実体験から。

岡崎 雅彦 元・富裕層担当バンカー

公開: 2026年5月28日 更新: 2026年5月28日

経営者 時計──プライベートバンカー20年が、現場で見た選択の論理

「あなたは、なぜその時計を選んだのですか」

ある時、私はメガバンクのプライベートバンキング部門で担当していた60代の経営者に、思い切ってそう訊いた。彼はロレックス デイトジャストを、30年以上同じものを着け続けていた。

返ってきた答えは意外なものだった。「妻がくれたからだ」と。

20年プライベートバンカーをして、300人以上の経営者の時計を見てきた。彼らが時計を選ぶ動機は、私が想像していたものとは違うことが多かった。「ステータス」「資産」「投資」──これらは表面的な話で、本当の動機はもっと個人的で、静かなものだった。

その会話の中で、私は彼らの「持ち物」を観察し続けてきた。スーツ、靴、万年筆、車、そして時計。

時計は、特に面白い観察対象だった。なぜなら、経営者の時計選びには、その人の哲学が驚くほどはっきり現れるから

このページでは、20年プライベートバンカーをしてきた私が、現場で見てきた経営者の時計選びを書く。雑誌では絶対に書かれない、当事者の論理を綴る。

革ストラップのメンズ高級腕時計が暖かい光の中でデスクに置かれた様子

経営者の時計選び、動機の解剖

20年観察して、私は経営者の時計選びを3つの動機に分類している。

動機1: 「見せる時計」

取引先、株主、メディアの前で着ける時計。

これは信頼のサインだ。商談相手に「この人は本物だ」と無言で伝える役割。あるいは、自分が業界の中でどのポジションにいるかを示すサイン。

代表的な選択:

  • ロレックス サブマリーナ(¥150万前後)
  • パテックフィリップ カラトラバ(¥400万前後)
  • オーデマピゲ ロイヤルオーク(¥350万前後)

「派手すぎず、地味すぎず、分かる人には分かる」が条件。

動機2: 「守る時計」

自分の人生に長く付き合う一本。

これは個人の資産として選ばれる。経営者は基本的に「会社」と「個人」を分けて考える人が多く、自分個人の名義で長く所有できるものに価値を置く。

代表的な選択:

  • ロレックス デイトジャスト(¥80万前後)
  • ジャガールクルト レベルソ(¥120万前後)
  • グランドセイコー SBGH 等(¥80万前後)

「修理し続ければ、子供にも渡せる」というのが共通の発想。

動機3: 「楽しむ時計」

自分のためだけの、趣味の領域。

時計の市場全体については日本時計協会が国内統計を毎年公表しており、業界の規模感を把握するのに役立つ。プライベートバンカーとして数値を扱っていた私も、定期的にこの統計に目を通してきた。

これは他人に見せるためではない。週末や休日、自宅でひとり眺めて満足する一本。

代表的な選択:

  • パテックフィリップ ノーチラス
  • A.ランゲ&ゾーネ ザクセン
  • リシャール・ミル
  • F.P.ジュルヌ

このカテゴリは、年商規模によって全く違う。¥300万から¥3,000万まで幅広い。

多くの経営者は、この3つを使い分けるために、3-5本の時計を持っている。これが20年見てきた現実だ。

ブラスケースの高級腕時計の文字盤クローズアップ、上品な経年感

年商と時計のグレードの相関──直線的ではない

雑誌や個人ブログでは「年商◯億円なら時計はこれ」という記事が多い。

しかし、私が20年見てきた現実は違う。相関はあるが、直線的ではない

私が観察したパターン

年商規模多い時計例外
1-5億円ロレックス(¥80-150万)または ブランド未参入リシャール・ミルを着ける飲食店経営者あり
5-20億円ロレックス・オメガ・IWC(¥80-200万)パテック1本主義者あり
20-100億円パテック・オーデマピゲ・ランゲ複数所有グランドセイコー1本で通す人あり
100億円超リシャール・ミル・MB&F・ジュルヌ等の希少品デイトナ中古1本で20年の人あり

「例外」の列が重要だ。年商100億円規模で¥80万のロレックスを20年着け続けている経営者を、私は3-4人見ている。

逆に、年商10億円規模で¥3,000万の時計を着けるベンチャー経営者も、数人いた。

グレードを決める3要素

経営者の時計のグレードを決めるのは、年商よりも以下の3要素だと思う:

  1. 業界文化: 金融・不動産系は派手寄り、製造業・士業は地味寄り
  2. 個人の趣味: 投機的な人 vs コレクター気質
  3. 創業者か二代目か: 創業者は質素、二代目は派手な傾向

これらの組み合わせで、時計が決まる。

派手系 vs 地味系──業界別の傾向

20年観察して、業界別の傾向はかなり明確だ。

派手系の傾向が強い業界

  • IT・ベンチャー: 急成長を見せる必要があるため
  • 飲食・サービス業: 顧客が時計を見る業界
  • 不動産(特に投資系): 富の象徴として
  • エンタメ・芸能関連: ブランディング目的

これらの業界では、リシャール・ミルロレックス デイトナ プラチナ等の「一目で分かる高級品」が好まれる。

地味系の傾向が強い業界

  • 製造業(特に老舗): 派手は嫌われる文化
  • 士業(弁護士・税理士): 顧客に資産を見せない倫理
  • 金融(特に銀行・証券): 規制業種としての慎重さ
  • 学術・研究系: そもそも時計に興味がない人多数

これらの業界では、ロレックス デイトジャストパテックフィリップ カラトラバ等の「言われないと気付かない」時計が選ばれる。

私が担当した銀行頭取は、3代続けてロレックス エクスプローラー1(¥80万前後)を着けていた。「これ以上の時計は、銀行員には不要」と言っていた。

「最初の高級時計」を経営者はいつ買うか

これは、私がよく経営者に質問する話題だった。

統計的な傾向として:

  • 創業5年目以内: 高級時計を買う経営者は2割以下
  • 創業5-10年目: 4-5割が¥50-100万の時計を購入
  • 創業10-15年目: 7-8割が¥80-200万の時計を所有
  • 創業15年超: ほぼ全員が複数本所有

「最初の一本」を買うタイミングとして最も多いのは、創業10年・年商5億円到達のとき

「ようやく自分への投資ができる」と判断する瞬間。経営者は自分への投資を最後まで後回しにする傾向があり、これが時計購入のトリガーになる。

「最初の一本」の典型例

私が観察した、経営者の「最初の一本」の典型:

  1. ロレックス サブマリーナ デイト(¥150万前後)─ 50代経営者に多い
  2. オメガ シーマスター プラネットオーシャン(¥80万前後)─ 40代経営者に多い
  3. IWC ポルトギーゼ(¥120万前後)─ 知的職業系に多い
  4. タグホイヤー カレラ(¥40-80万)─ 30-40代起業家に多い

ロレックスが選ばれる理由は、「迷ったらロレックス」で外さないから。これは経営者の意思決定パターンと一致する。

機械式時計の入門はこちらに詳しく書いた。

取引先への印象──「読まれる時計」の論理

経営者が時計を選ぶとき、必ず意識するのが取引先への印象だ。

これは、私のような銀行員が顧客の自宅を訪問するときも同じ。相手が時計を見ているかもしれない、と意識する

場面別の選択

経営者がよく言っていた使い分けの例:

場面時計の選択
取引先との初対面ロレックス、オメガ(無難で実績ある銘柄)
重要な契約締結パテック、カラトラバ(控えめだが分かる人には分かる)
株主総会質素な銘柄(グランドセイコー、シチズン等もあり)
接待・会食派手すぎないドレスウォッチ
海外取引(欧米)パテック、オーデマピゲ(欧州で評価高い)
海外取引(アジア)ロレックス(広く認知されている)
休日・趣味自分の好きなもの何でも

取引先への配慮として時計を選ぶ」という発想は、欧米の経営者にはあまりない。日本独特の文化だと感じる。

「過剰」と取られる時計

逆に、商談相手に警戒される時計もある。

  • リシャール・ミル(¥1,000万超)─ 「派手すぎる」と思われやすい
  • ハイブロウ プラチナケース─ 「資産を見せている」と取られる
  • 新作の話題機種─ 「投機目的では?」と疑われる

これらは個人の趣味としては良いが、初対面の取引先との場では避けるのが無難だ。

経営者のデスクに置かれた時計と万年筆、革のノートカバー

私が見てきた「本物の選び方」

20年プライベートバンカーをして、本物の経営者の時計選びには共通点がある。

共通点1: 1本を10年以上使う

派手な経営者ほど時計を頻繁に買い替える。地味で長続きする経営者は、1本を10-20年使い続ける

私が知る最も尊敬する経営者の一人は、創業から30年、ロレックス デイトジャスト1本だけを使い続けていた。

共通点2: メンテナンスにこだわる

本物の経営者は、時計のオーバーホールを定期的に行う。「修理し続ける文化」を持っている

ロレックス正規オーバーホールは¥10万前後だが、これを「維持費」として受け入れる。捨てて買い替える発想ではない。

共通点3: 「投資」とは言わない

経営者の時計購入動機を聞くと、「投資」と言う人は、二流以下だった。

本物の経営者は「気に入ったから」「長く使えそうだから」と言う。投資として時計を買うのは、別の何かを補おうとしているサイン、と私は見ている。

共通点4: 派手な機種を持っていても、見せ場で着けない

リシャール・ミルやパテック ノーチラスなどの希少品を所有していても、重要な商談には着けていかない。趣味と仕事を分離している。

これが「本物の経営者の論理」だと、20年見てきた結論だ。

最後に──時計に映る経営者の姿

私が20年見てきた経験から、これから経営者を目指す方、もしくは「最初の一本」を選ぶ経営者の方への助言:

  1. 「見せる用」と「楽しむ用」を分ける:1本ですべてをカバーしようとしない
  2. 派手すぎる時計から始めない:¥80-200万のロレックスかオメガが入口として安全
  3. メンテナンスを覚悟して買う:「修理し続ける文化」が本物の所有

機械式時計の入門も併せて読むと、技術面の理解が深まる。万年筆や革靴と同じく、時計は経年変化を楽しむ道具だ。経営者にとって、自分の人生を共に歩んだ時計は、ただの装飾品ではなく、自分の哲学を物語る道具になる。

そういう時計と出会えたら、それは経営者として幸せなことだと、20年見てきた私は思う。

参考資料


次に読む

「大人の趣味」では、本物志向の道具と長く付き合う知恵を、専門家5名が綴っています。編集方針はこちら

よくある質問

Q. 経営者が時計を着ける本当の理由は何ですか?
私が20年プライベートバンカーをして観察した結論では、3つです。①取引先・株主への信頼サインとしての「見せる時計」②長く付き合える資産としての「守る時計」③個人の趣味としての「楽しむ時計」。多くの経営者は、3本以上を使い分けています。
Q. 年商と時計のグレードに、どんな相関がありますか?
経験上、相関はあるが「直線的ではない」のが現実です。年商10億円規模で¥3,000万の時計を着ける人もいれば、年商100億円規模で¥80万のロレックスだけを20年使う人もいます。グレードを決めるのは年商より「経営者の価値観」と「業界文化」です。
Q. 経営者が「最初の高級時計」を買うタイミングは?
私が見てきた多くのケースでは、創業10-15年目、年商5-10億円に到達した頃です。「ようやく自分への投資ができる」と判断するタイミング。最初の一本は¥80-200万円のロレックスかオメガが最も多く、その後パテックやランゲへ進む人が多数派です。
Q. 取引先と会うとき、どんな時計が無難ですか?
第一に「派手すぎないもの」。¥500万超のリシャール・ミルを取引先との初対面で着けると、相手によっては警戒される場合があります。¥80-200万円のロレックス・サブマリーナやデイトナ、オメガ シーマスター等が、最も無難で「分かる人には分かる」レベルです。
Q. 投資として時計を買うのは賢明ですか?
一部のロレックス スポーツモデルは過去10年で大きく値上がりしましたが、これは例外と捉えてください。多くの高級時計はオーバーホール費用と中古価値下落を考えると、純粋投資としては効率が良くない。「使う前提」で買うのが、長期的に最も満足度が高い選択です。

About the author

岡崎 雅彦

元・富裕層担当バンカー・メガバンク プライベートバンキング 20年

メガバンクのプライベートバンキング部門で20年。富裕層顧客のライフスタイル・所有物・価値観を熟知。「持ち物が語るもの」を経営者目線で書く。

Editor's note

編集後記とエッセイは、note で。

サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。