大人の趣味 otona-shumi
Writing 9 min read

万年筆 メンズ おすすめブランド3選──取材30年編集長が選ぶ本物

万年筆 メンズで本物のおすすめブランドを選びたい人へ。男性ファッション誌編集15年・取材30年の編集長が、モンブラン/ペリカン/パイロット3ブランドの選び方、ペン先の太さ、価格帯の現実、初心者が避けるべき選択を実体験で解説。

吉村 慎太郎 編集長 / 元・男性ファッション誌編集者

公開: 2026年5月28日 更新: 2026年6月11日

万年筆 メンズ おすすめブランド3選──取材30年編集長が選ぶ本物

あなたは、最後に「自分の字」を書いたのはいつですか。

メールでもLINEでもなく、紙に、ペンで、自分の手で書いた字。たぶん、数日前か、数週間前か、もっと前か。

私は毎日書いている。取材ノートも、原稿の下書きも、メモも、全部。ボールペンではなく、万年筆で。これが30年続いてきた習慣だ。

1996年、新人編集者として入った大手出版社で、先輩から「取材ノートは万年筆で書け」と言われた時は反発した。今、30年経って分かるのは、彼が正しかったということだ。

それから30年、私の取材ノートは万年筆で書かれてきた。インタビューも、原稿の下書きも、自分用のメモも。書いた量は、たぶん30万字を超えると思う。いや、もっとあるかもしれない。

このページでは、男性ファッション誌の編集を15年務めた私が、自分自身の手元に残してきた万年筆と、これから一本目を持つ人へのアドバイスを綴る。

黒い万年筆と革のノートカバー、暖かい照明の書斎机

なぜ万年筆なのか──30年使って分かったこと

万年筆 は、19世紀末に実用化された筆記具だ。100年以上の歴史があるにもかかわらず、基本構造はほとんど変わっていない。

なぜか。それは、完成された道具だからだと思う。

私が30年使って実感した、万年筆の3つの効用を挙げる。

1. 手が疲れない

ボールペンは筆圧が要る。長時間書くと、人差し指の付け根に痛みが出る。万年筆はインクが自然に流れるので、ペン自体の重みだけで書ける。

これが、3時間のインタビューを書き取り続けるとき、決定的に効いてくる。

2. 字が綺麗に見える

これは個人差があるが、万年筆で書くと、ボールペンより字に「強弱」が生まれる。線の太細、止め払い。自分の字が一段階上品に見えるのは、確かだ。

私は決して字が綺麗な方ではない。それでも、万年筆で書いた取材ノートは、何年経っても自分で読み返したくなる。

3. 「書く時間」が変わる

最後に、これが一番大きい。万年筆を持つと、書く速度がやや遅くなる。急いで書けない道具を使うと、考えながら書くようになる

編集者として、これは大きな副次的効用だった。早書きの取材メモは、後で読み返すとほぼ意味不明。万年筆で書いた30文字の方が、ボールペンで書いた100文字より、内容が深い。

価格帯の現実──私自身の体験

万年筆の価格帯は、本当に幅が広い。¥1,000台から¥100万超まで。

30年の体験から、私はこう整理している。

入門帯: ¥3,000-5,000

  • パイロット カクノ(¥1,100)─ 子供向けに見えるが書き味は本格的
  • LAMY サファリ(¥4,400)─ ドイツの定番、デザイン秀逸
  • パイロット コクーン(¥3,300)─ 大人向けのカクノ的存在

万年筆の書き味とは何か」を学ぶための一本。いきなり高価格帯を買う必要はない。私自身、最初の3本はすべてこの価格帯だった。

中堅: ¥15,000-30,000

  • パイロット カスタム74(¥16,500)─ 日本万年筆の良心
  • セーラー プロフィット スタンダード(¥22,000)─ 日本字に最適化
  • プラチナ #3776 センチュリー(¥22,000)─ ペン先が硬めで取材向き

ここから「一生もの」の候補が出てくる。日本メーカー3社(パイロット・セーラー・プラチナ)は、この価格帯で世界最高クラスの書き味を提供している。

本命: ¥50,000-150,000

買って良かった」と20年以上経って言える、本物の領域。私の手元のモンブラン149は1998年購入、27年経っても現役だ。

高級: ¥200,000+

  • モンブラン 149 シルバー軸
  • ペリカン スーベレーン M1000
  • パイロット カスタム ウルシ(漆塗り)

このクラスは、もはや「万年筆 メンズの入門」の範囲外。手にする前に、せめて中堅クラスを5年は使ってからにしてほしい。

「最初の一本」に勧める3本

30年の編集経験から、私が初心者に勧めるのは以下の3本だ。順番に持つと、自分の好みが見える

3本の高級万年筆が並んだ静物撮影

国内最大手の万年筆メーカーパイロット コーポレーションは、入門機のカクノから最高峰のカスタムウルシまで幅広いラインナップを揃えている。「日本字を書くなら日本メーカー」が、私が30年取材で得た結論だ。

1本目: パイロット カクノ または LAMY サファリ(¥1,000-5,000)

「万年筆の感覚」を覚えるための一本

これで「自分が万年筆を続けられる人間か」を判定する。3ヶ月使って、書き味が好きなら次へ。途中で挫折しても、損失は¥5,000で済む。

2本目: パイロット カスタム74 または プラチナ #3776(¥16,000-22,000)

「日本字に最適化された万年筆」を経験する一本

ドイツ製の高級万年筆は、日本字との相性が必ずしも良くない。漢字を書くには線が太すぎることがある。日本メーカーの中堅機種は、この点で本当に優秀だ。

私は今でも、取材ノートにはパイロット カスタム743(カスタム74の上位機種)を使うことが多い。

3本目: モンブラン 146 または ペリカン M800(¥85,000-110,000)

「一生もの」の本命

このクラスを持つと、所有の喜びが変わる。机に置いてあるだけで、空間が変わる感覚がある。

ただし、いきなり3本目を買わないでほしい。1本目・2本目を経た上で、自分の好み(ペン先の太さ、軸の太さ、重さ)が分かってから選ぶべき。

ペン先の太さ──私の選び方

万年筆のペン先(ニブ)は、太さで分かれている。

表記太さ用途
EF (Extra Fine)極細手帳、細かい書き込み
F (Fine)細字日本字一般
M (Medium)中字英字・日本字両用
B (Broad)太字署名、強調
BB / 3B極太装飾的、署名

初心者には M(中字)が無難。日本字も英字もそれなりに書ける。最初に EF を買うと、線が細すぎて万年筆の「線の強弱」が分かりにくい。

私の手元の万年筆は、6本がM、3本がF、1本がBB(署名用)。30年使って、結局この配分に落ち着いた。

補充方式──カートリッジ・コンバーター・吸入式

万年筆のインク補充方式は、大きく3つ。

カートリッジ式

専用カートリッジを差し込むだけ。最も手軽。出張時にも便利。色の選択肢はやや限定的。

コンバーター式

ボトルインクから吸い上げる別売り器具(コンバーター)を使う。色の選択肢が無限。万年筆らしさを楽しむなら、これ。

吸入式

ペン本体にインクタンクが内蔵されている方式。ペリカンの上位機種やモンブラン149などが該当。容量が大きく、書き続けても切れにくい。ただし手入れがやや手間。

初心者には、カートリッジ+コンバーター両用機がベスト。気分でボトルインクを試せるし、出張時はカートリッジに戻せる。

30年使って分かった、長く使うコツ

最後に、万年筆を長く使うための私自身のルールを書いておく。

万年筆のペン先がクリーム色の紙に書いているクローズアップ

1. 毎日使う

万年筆は、使わないと壊れる。インクが乾いて固まり、ペン先が詰まる。最低でも週に1回は書くこと。これができない人は、万年筆を持つべきではない。

2. ペン先は人にもメーカーにも触らせない

ペン先はその人の筆圧に合わせて変形する。他人に貸して、その人の癖がついたペン先は、もう自分には合わない。私は若い編集者に「ペン先を貸すなら、その万年筆をあげるのと同じだ」と教えていた。

メーカーへのオーバーホールは別。これは推奨。

3. 3-4年に一度、ペン先調整に出す

メーカーの技術者にペン先を調整してもらう。費用は¥5,000-15,000程度。

私の手元のモンブラン149は、27年で7回調整に出している。機械式時計のオーバーホールと同じ感覚で、メンテナンス費用と考える。

4. インクは月1で交換、または使い切る

万年筆に入れたインクは、月1で交換するか、使い切るのが理想。古いインクは粘度が変わり、ペン先のトラブルの原因になる。

5. 落とさない

これは絶対。万年筆を落とすと、ペン先が変形して、二度と元に戻らない。机から離すときは、必ずキャップを閉めて、ペン立てに戻すこと。

「経年変化」を楽しむ道具

万年筆は、機械式時計や革靴と同じく、経年変化を楽しむ道具だ。

新品のペン先は、書き味がやや硬い。3ヶ月使うと、自分の筆圧と書き癖にペン先が馴染んでくる。1年経つと、もう「自分専用」になる。10年経つと、もはや他人には貸せない、自分だけの一本になっている。

これが、ボールペンには絶対にない魅力だ。

私の手元のモンブラン149は、27年前の自分が選んだ。あの時の自分が「これを30年使い続けるとは思わなかった」と書いた一行を、たまに開いて読み返す。所有とは、こういうことだと思う

まとめると──30年使う一本の選び方

最初の一本としては:

  1. ¥1,000-5,000の入門機(パイロット カクノ等)で感覚を学ぶ
  2. ¥15,000-30,000の中堅機(パイロット カスタム74等)で日本字との相性を確かめる
  3. ¥50,000-150,000の本命(モンブラン146、ペリカン M800等)を、自分の好みが分かってから選ぶ

そして、毎日使う。これだけ。

万年筆は、書く速度を遅くする。考える時間を与えてくれる。それが、30年メンズ誌の編集をしてきた私が、今もこの道具を手放さない理由だ。

参考資料


次に読む

「大人の趣味」では、本物志向の道具と長く付き合う知恵を、専門家5名が綴っています。編集方針はこちら

よくある質問

Q. 万年筆とボールペンは、何が違いますか?
物理的な違いは「インクの供給方式」です。万年筆は重力と毛細管現象でインクが出るので筆圧がほぼ要らず、ボールペンは球の回転で出るので一定の筆圧が必要。長時間書く人には万年筆の方が手が疲れにくい、というのが30年の取材ノートで実感した違いです。
Q. 最初の一本は、いくらくらいから始めればよいですか?
¥3,000-5,000のパイロット カクノやLAMY サファリで「万年筆の感覚」を学んでから、¥30,000-50,000の本命を買うのが理想です。いきなり10万円超のモンブランを買う必要はありません。私自身、最初の3本は¥5,000以下で揃えました。
Q. ペン先(ニブ)の太さは、どれを選べばいいですか?
日本字を書く人にはF(細字)かM(中字)が無難です。EF(極細)は手帳向け、B(太字)は署名向け。最初の一本は M を選ぶのが失敗が少ない、と編集経験から思います。「ペン先を変えれば一生使える」のも万年筆の魅力です。
Q. コンバーターと吸入式、どちらが良いですか?
初心者にはコンバーター式(カートリッジ式も併用可)が便利です。ボトルインクの種類が豊富で、出張時はカートリッジに切り替えられる柔軟性も。吸入式は構造上、上級機種に多いですが、長く使うなら結局どちらでも問題ありません。
Q. 万年筆は何年くらい使えますか?
適切に手入れすれば30年以上使えます。私の手元には1998年に買ったモンブラン149があり、もう27年使っています。ペン先は3-4年に一度メーカー調整に出していますが、本体はまったく劣化していません。

About the author

吉村 慎太郎

編集長 / 元・男性ファッション誌編集者・メンズ誌編集 15年・取材歴 1,000本以上

大手出版社で15年メンズ誌編集を務めた後、独立。時計、オーダースーツ、革製品の取材歴は累計1,000本超。「本物は派手さで主張しない」を信条に、横断的な視点で当メディアを統括する。

Editor's note

編集後記とエッセイは、note で。

サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。