革靴 手入れ ──ジョンロブを20年履いた男の、月一の儀式
高級革靴を長く履くための手入れ方法を、ジョンロブ・エドワードグリーンを20年所有するファッションエディターが語る。毎日のケアから月一の本格メンテナンス、避けるべき間違いまで実体験から。
田島 啓介 ファッションエディター
公開: 2026年4月22日
土曜の夕方は、革靴の手入れに使う。
これが、もう20年続いている習慣だ。15年前か18年前くらいに始めたと思う。きっかけは、買ったばかりのジョンロブ・シティを、半年で履きつぶしたこと──いや、履きつぶしたという表現は語弊がある。手入れをしなかったせいで、革に深い皺と痛みを刻み込んでしまったのだ。
ジョンロブ・シティは、確か¥320,000台だった。当時の私の月収の半分以上を、たった半年で台無しにした。
あの時の悔しさが、私の革靴ケアの原点になっている。
このページでは、私が20年かけて辿り着いた、革靴の手入れ方法を書く。ブログにあるような優等生な「正解」だけでなく、私が間違えた話も、無駄だとわかった習慣も、全部書く。
まず、革靴を長く履くということ
ジョンロブを20年履いてきた経験から言うと、革靴の寿命を決めるのは、ブランドでも値段でもない。
手入れの習慣。これに尽きる。
私の手元には、
- ジョンロブ シティ(1996年購入、現役)
- ジョンロブ フィリップII(2003年購入、ソール一度交換、現役)
- エドワードグリーン チェルシー(2008年購入、現役)
- クロケット&ジョーンズ オードリー(2014年購入、現役)
このうち最古参のシティは、もう30年近く履いている。ソールは2回交換した。アッパーの革は、新品時よりも美しい。
逆に、20代の頃に買ったイタリア製の某ブランド(名前は伏せる)は、5年で限界が来た。値段はジョンロブの3分の1だったが、手入れの仕方を変えても限界があった。
つまり、
- 良い靴(最低でも¥150,000以上)を買い、
- 月1回まじめに手入れし、
- 1足を毎日履かない(必ずローテーション)
この三つを守れば、革靴は20年、30年、平気で持つ。
毎日のケア(5分・必須)
これだけは絶対やってほしい、というのが3つ。
1. 履いた直後のブラッシング
馬毛のブラシで、ホコリと汚れを落とす。30秒で十分だ。
サフィールの馬毛ブラシ(¥2,000前後)を1本買えば一生使える。私は2002年に買ったブラシをまだ現役で使っている。
2. シューツリーを入れる
履いた靴は、必ず木製のシューツリーを入れて休ませる。
革は1日履くと、足の汗を吸ってかなり湿気を含む。シューツリーは形を整えると同時に、湿気を吸い出す役割を果たす。
木製であること。プラスチックは論外。「シダーウッド」が一番湿気を吸う。コロニル製で1足¥5,000前後、サフィール製で¥4,000前後、安いものは¥2,500くらいでもある。
私は20年前、ここをケチった。プラスチック製のシューキーパーを使っていた時期、靴の中はカビ臭くなり、革も傷んだ。シューツリーだけは、ケチらないでほしい。
3. 連日同じ靴を履かない
革は、1日履いたら2日休ませる。これが鉄則。
3足のローテーションを組めれば、革は完全に乾く時間ができ、結果として靴の寿命が3倍に伸びる。
最低でも2足、できれば3足のローテーションを。これは、靴の手入れというより、靴の使い方の話だ。
月1回の本格ケア(30分・推奨)
私は土曜の夕方、これをやる。
用意するもの
- 馬毛のブラシ(汚れ落とし用)
- 山羊毛のブラシ(仕上げ用、これがあると革に光沢が出る)
- ステインリムーバー(古いクリームを落とす)
- 革用クリーム(保湿)
- 布(ネル生地が良いが、Tシャツの古着でも可)
クリームは、サフィールの「クレム1925」がお勧めだ。¥2,500前後で、1本で10足は手入れできる。色は、靴の色より少し薄めを選ぶ。例えば、こげ茶の靴には「ダークブラウン」ではなく「ミディアムブラウン」、もしくは「ニュートラル(無色)」。
濃い色を入れすぎると、革本来の色味が変わってしまう。
手順
- 馬毛ブラシで埃を払う(30秒)
- ステインリムーバーで古いクリームを落とす(布に少量つけて、靴全体を撫でる程度。3分)
- 革用クリームを薄く塗る(指で、または布で、薄く均一に。塗りすぎ厳禁。5分)
- 5分ほど休ませる(クリームが革に浸透するのを待つ)
- 山羊毛のブラシでブラッシング(クリームが革に馴染み、光沢が出る。3分)
- 仕上げに布で乾拭き(軽く磨き上げる。2分)
これで、1足30分。
ジョンロブ・シティを最初に買ったときは、これを知らず、ただ表面にクリームを塗りたくっていた。革は呼吸できなくなり、ひび割れた。3年で限界が来た。
クリームは「薄く、少なめに」。これが鉄則。
雨の日のケア(緊急)
雨に濡れた日は、その日のうちに対応する。これも絶対。
- 帰宅したら、すぐにシューツリーを入れる
- 表面の水滴を布で軽く拭く(こすらない)
- 直射日光・暖房は厳禁。陰干しのみ
- 2日ほど乾燥させたあと、月1のケアと同じ手順で保湿
雨ジミになった場合は、靴全体を一度湿らせて、再度ムラなく乾燥させると、ある程度消える。これは、知っているといざという時に役立つ知恵だ。
私が間違えた話
20年やってきて、間違えたことは数えきれない。代表的なものを挙げる。
1. クリームの塗りすぎ
20代の頃、毎週末クリームを塗っていた。革は油分過多になり、ベタつくようになった。クリームは月1で十分。
2. 安いシューキーパーで済ませた
¥1,500のプラスチック製を10足分買って満足していたら、3年後、靴がカビた。
3. 雨の日に革靴を履いた
これは今でも反省している。革靴は雨の日は履かない。これが基本だ。雨用の革靴(コードバンよりも、ガラスレザーやラバーソール)を別に1足持っておくのが正解。
4. 自分でソール交換を頼まなかった
ジョンロブ シティのソールが薄くなった時、近所の靴修理店に頼んでしまった。仕上がりは雑で、3年で再度交換することになった。ジョンロブ・エドワードグリーン級の靴は、メーカー直送のリペアに出すこと。 費用は¥30,000-50,000前後だが、新品同様に戻ってくる。
結論
革靴を長く履くために、必要なことは、たった3つ。
- シューツリーを必ず入れる(木製・1足¥4,000以上)
- 月1回、クリームで保湿する(薄く、少量を)
- 同じ靴を連日履かない(最低2足ローテーション)
これだけを守れば、ジョンロブもエドワードグリーンも、20年は履ける。30年も狙える。
土曜の夕方、革靴を磨く30分は、忙しい一週間の中で、私の数少ない静かな時間だ。
革に触れて、光沢を引き出す。それは、自分の身につけるものに、心を配るということでもある。
革靴の手入れは、面倒な作業ではない。むしろ、大人の男の静かな贅沢だと、私は思っている。
よくある質問
- Q. 革靴の手入れは、どのくらいの頻度ですればよいですか?
- 履いた直後のブラッシングは毎日、クリームでの保湿は月1回が目安です。雨に濡れた日は、その日のうちに陰干しと簡単なケア。私はジョンロブを月1回、エドワードグリーンを月2回ケアしています。
- Q. シューキーパー(シューツリー)は必要ですか?
- 必要です。これだけは妥協しないでください。木製のものを使い、履いてきた靴に必ず入れる。形を保つだけでなく、湿気を吸ってくれます。1足あたり¥3,000-5,000の投資で、革靴の寿命が2倍になります。
- Q. 高級靴クリームは、どれを選べばよいですか?
- 「サフィール ノワール」のクレム1925か、「コルドヌリ・アングレーズ」のワックスがあれば、ほぼ全てに対応できます。色は、靴の色より少し薄めを選ぶのが安全。靴店で店員に相談するのが結局一番確実です。
About the author
田島 啓介
ファッションエディター・メンズファッション取材 20年
銀座・青山のオーダースーツ店、有名靴職人への取材歴20年。革製品の経年変化研究家。「直すことを前提に買う」が口癖。