ロレックス GMTマスター2──ペプシは実勢430万円、それでも選ぶ価値はあるか
ロレックス GMTマスター2の定価は2026年1月改定でジュビリー仕様¥1,780,900。だが実勢はペプシで並行約430万円と定価の2倍を超える。ベゼル別の価格・入手難易度・1955年パンナム起源まで、コレクター歴30年の評論家が数字と実体験で整理する。
川村 篤志 時計評論家 / コレクター歴30年
公開: 2026年7月24日 更新: 2026年7月24日
「海外が長いから、次はGMTマスター2と決めているんだ。いくら用意すればいい」
羽田の出発ラウンジで、商社勤めの旧友にそう訊かれた。定価は178万円だと答えると、彼は頷いた。ただし正規店で買える確率は宝くじに近く、並行新品ならペプシで430万円前後だと続けると、彼はコーヒーを持ったまましばらく黙った。
この沈黙こそ、2026年のGMTマスター2を語る出発点だと思う。定価と実勢が2倍以上乖離した時計を、それでも買う価値があるのか。あるとすれば誰にとってか。
この記事では、コレクター歴30年の私が、GMTマスター2の現行モデルをベゼル別に整理し、2026年1月改定後の定価と中古・並行実勢、正規マラソンと並行購入の現実、そして1955年のパンナム航空から始まる系譜までを、数字と実体験で綴る。ベゼルの色で数十万円変わる世界の歩き方を、両論併記で逃げずに書きたい。

1955年、パンナムの操縦席から生まれた時計
GMTマスターは、ジェット旅客機時代の幕開けとともに生まれた。米パンアメリカン航空(パンナム)が大陸間路線の乗務員のために「二つの時間帯を同時に読める時計」をロレックスに求め、1955年に初代Ref.6542が誕生する。24時間針と回転ベゼルの組み合わせで第二時間帯を表示する方式は、このとき確立された。
象徴である赤×青のベゼル、通称「ペプシ」の配色は、装飾ではなく機能だった。24時間ベゼルの昼の時間帯(6時〜18時)を赤、夜を青に塗り分けることで、相手国が昼か夜かを一目で判別できる。初代のベゼルはベークライト製で、割れやすさから早々に金属製へ改められた。この辺りの経緯は、道具が現場で鍛えられていく過程そのものだ。
1959年からのRef.1675は四半世紀近く作られた大定番となり、1983年に「GMTマスターII」(Ref.16760)が登場する。IIの本質は、時針だけを単独で1時間刻みに動かせる機構にある。着陸後、分針と秒針を止めることなく時針だけを現地時間に送れる。この「ジャンピングアワー針」があるからこそ、GMTマスター2は旅の実用時計たり得ている。以後、16710を経て2005年にセラミック(セラクロム)ベゼル化、2013年に青×黒の「バットマン」(116710BLNR)が初の2色セラクロムとして登場、2018年にはステンレス×ジュビリーブレスのペプシ(126710BLRO)が復活し、現在に至る。
70年前に航空会社の業務用として生まれた時計が、いまや世界で最も入手困難な時計の一つになった。この皮肉は、後述する価格の話と地続きだ。
歴代の主要リファレンスを整理しておく。中古市場を見るときの地図になるはずだ。
| 型番 | おおよその製造期 | 世代 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 6542 | 1955年〜1959年 | GMTマスター | 初代。ベークライトベゼル。コレクター領域 |
| 1675 | 1959年〜1980年頃 | GMTマスター | 四半世紀近い大定番。ヴィンテージの中心 |
| 16760 | 1983年〜1988年 | GMTマスターII | 初のII。厚型ケースの通称「ファットレディ」 |
| 16710 | 1989年〜2007年 | GMTマスターII | アルミベゼル最終世代。赤青・赤黒・黒を選べた |
| 116710LN / BLNR | 2007年〜/2013年〜 | GMTマスターII | セラクロムベゼル化。BLNRが初の2色セラミック |
| 126710系 | 2018年〜現行 | GMTマスターII | ペプシ復活。Cal.3285・ジュビリー標準 |
こうして並べると、GMTマスターの歴史は「ベゼルの素材と配色の歴史」でもあることが分かる。ベークライト、アルミ、セラミック。赤×青に始まり、赤×黒(コーク)、青×黒、灰×黒。どの世代のどの色に惹かれるかで、その人の時計観が出る。
ベゼル別・現行モデルと定価(2026年1月改定後)
現行のステンレスモデルはベゼル配色で3種。2026年1月の価格改定後の定価は以下のとおりだ。
| 通称 | 型番 | ベゼル配色 | ブレスレット | 定価(2026年1月改定後) |
|---|---|---|---|---|
| ペプシ | 126710BLRO | 赤×青 | ジュビリー | ¥1,780,900 |
| バットマン | 126710BLNR | 青×黒 | ジュビリー | ¥1,780,900 |
| (グレー×黒) | 126710GRNR | 灰×黒 | ジュビリー | ¥1,780,900 |
オイスターブレスレット仕様はやや安く、バットマンで¥1,747,900が確認できる。改定前(2025年)のジュビリー仕様は¥1,664,300前後だったから、値上げ率は約7%。エクスプローラーやオイスターパーペチュアルと同率で、ロレックス全体の改定の一環だ。
このほか、左利き用に9時位置へリューズを移した緑×黒の「スプライト」(126720VTNR)、エバーローズゴールドを使った茶×黒の「ルートビア」系、金無垢モデルが存在するが、ステンレス3モデルとは価格帯が変わるため本記事では割愛する。まず押さえるべきは「ステンレスのジュビリーはどの色でも定価178万円」という基準線だ。
ムーブメントは全モデル共通のCal.3285。パワーリザーブ約70時間、クロナジー脱進機を備え、日差−2〜+2秒の高精度クロノメーター認定を受ける。機械としてはサブマリーナのCal.3235にGMT機構を加えた兄弟機で、信頼性の実績も十分にある。
中古・並行実勢──定価の2倍という現実
問題はここからだ。2026年前半時点の実勢を、私が定点観測している範囲で整理する。
| 通称 | 並行新品(2026年2月時点) | 中古(同時点) |
|---|---|---|
| ペプシ(126710BLRO) | 約430万円 | 約340〜360万円 |
| バットマン(126710BLNR) | 約335万円 | 約280〜300万円 |
| グレー×黒(126710GRNR) | 約370万円 | 約300〜340万円 |
定価178万円に対し、実勢はどの色も2倍前後。とりわけペプシは2026年春に「ベゼル製造の難しさから廃番になるのではないか」という観測が流れて急騰し、買取価格ですら400万円前後に達する局面があった。1月時点から数ヶ月で数十万円動いた計算で、正直、健全な相場とは言い難い。
30年この世界を見てきた経験から言えば、噂を燃料にした急騰には必ず反動がある。私は2000年代に16710を買い、廃番騒ぎのたびに相場が波打つのを何度も見てきた。それでも長期で見れば実勢が定価を割った時期はない、というのがGMTマスター2の底堅さでもある。つまり「短期の値動きを当てる遊び」には向かないが、「長く使う道具」としての下値不安は小さい。この二面性を理解した上で買うなら、高値圏でも後悔は少ないはずだ。
同じく定価と実勢が乖離した時計の代表格であるデイトナ(中古約500〜680万円)と比べれば、GMTマスター2はまだ「手が届く狂騒」の範囲にある、という言い方もできる。
ペプシかバットマンか──タイプ別の結論
色選びの相談には、いつも同じ枠組みで答えている。両論併記で終わらせず、言い切る。
ペプシ(赤×青)を選ぶべき人
- GMTマスターの歴史そのものに価値を感じる人
- 時計を「一生モノの物語」として買う人
- 休日の服装が多彩で、赤の差し色を楽しめる人
- 予算に100万円単位の余裕がある人
バットマン(青×黒)を選ぶべき人
- スーツ・ジャケットで着ける日が多い人
- 実勢価格の差額(数十万〜百万円以上)を合理と考える人
- 派手さより「分かる人には分かる」を好む人
グレー×黒(GRNR)を選ぶべき人
- 人と被りたくない人
- モノトーンの装いが基調の人
私の結論はこうだ。**道具として使い倒すならバットマン、GMTマスターという物語を買うならペプシ以外にない。**赤×青は1955年の初代から続く配色であり、この時計のアイデンティティそのものだ。一方で、日本のビジネスシーンで毎日使うなら、バットマンの馴染みの良さは実際に着けると想像以上だ。GRNRは良い時計だが、登場から日が浅く、物語はこれから作られる段階だと見ている。
色選びで後悔するパターンも30年分見てきたので、共有しておく。最も多いのは「本当はペプシが欲しかったのに、予算でバットマンにした」人の数年後だ。妥協で選んだ色は、街で本命の色を見るたびに疼く。逆に「バットマンが好きでバットマンを買った」人の満足度は高い。差額の数十万円より、この心理の差の方が所有体験を左右する。予算が届かないなら、無理に現行を狙わず一世代前の中古で本命の配色を買う方が、私の観察では幸福度が高い。
なお「ロレックスならどのモデルか」からやり直したい方は、全体の序列をロレックス完全ガイドに整理してあるので参照してほしい。
入手難易度の現実──正規マラソンか、並行か
GMTマスター2の入手難易度は、現行スポーツロレックスの中でデイトナに次ぐ最難関クラスにある。特にペプシは、正規店での購入報告が最も少ないモデルの一つだ。
正規店を回り続ける、いわゆる「マラソン」で買えれば定価178万円。しかし何年通っても出会えない人がいる世界であり、私はマラソンを「期待値の計算が成立しない宝くじ」と呼んでいる。時間コストを考えれば、むしろ高くつくことすらある。
対して並行店は、資金さえあれば今日買える。ペプシで約430万円、バットマンで約335万円。差額の150〜250万円は「待たない対価」だ。私自身は30年間、正規の縁にほとんど恵まれず、主要なモデルは並行と中古で揃えてきた。悔しさがないと言えば嘘になるが、時計は手首に乗って初めて価値を生む。ショーケースの中の定価は、買えない限り自分にとって存在しない価格だ。
現実的な折衷案として、中古の一世代前(16710など)や、現行の中古という選択肢も挙げておく。特に1989〜2007年の16710は、アルミベゼルの柔らかい発色と38mm級の収まりの良さで、私は現行より好きなくらいだ。中古購入の注意点はロレックスを中古で買うための完全ガイドにまとめている。
もう一つ、あまり語られない迂回路として、エバーローズゴールドとステンレスのコンビである「ルートビア」系や金無垢モデルは、ステンレス勢ほどの争奪戦になっていない。予算の桁が変わるので万人向けではないが、「GMTマスター2がどうしても欲しいが、何年も待てないし、相場の倍付けにも乗りたくない」という人が、あえてコンビを正規で狙うという戦略は実際に機能している。茶と黒のベゼルにシャンパン色の差し色は、スーツとの相性で言えばステンレス勢より上だと私は思っている。
真贋の注意も添えておく。人気と価格が上がった時計には、必ず精巧な偽物が湧く。GMTマスター2はその筆頭で、ベゼルの発色や夜光の質まで似せた個体が市場に紛れている。並行・中古で買うなら、ギャランティカードの確認はもちろん、真贋鑑定の体制を持つ店を選ぶこと。数万円の安さに惹かれて素性の怪しい個体を掴むのは、この価格帯では割に合わない博打だ。
二つの時間を生きる道具として──30年の実感
最後に、スペック表に載らない話をしたい。GMTマスター2は「使う理由がある人」の手首でこそ本領を発揮する時計だ。
私は2003年に16710を買い、15年ほど使った。海外出張の機内で時針だけを送る動作は、儀式めいた楽しさがある。分針も秒針も止まらないまま、時針がカチ、カチと1時間ずつ進む。腕の中で自分の身体だけが先に現地時間へ移動していく感覚は、スマートフォンの自動時刻合わせでは決して味わえない。
そして帰国後も、24時間針を取引先の時間帯に合わせたままにしておく。文字盤を見るたび「ニューヨークはいま早朝か」と、地球の裏の相手を身体感覚で把握できる。GMT機能の本質は時刻の読み取りではなく、離れた場所にいる誰かの生活を、常に頭の片隅に置いておけることだと私は思っている。海外と仕事をする人、家族が海外にいる人にとって、これは178万円の機能ではなく、もっと情緒的な何かだ。
意外に知られていないが、この時計は実は3つの時間帯を同時に扱える。時針でローカルタイム、24時間針とベゼルの基準位置で第二時間帯。ここまでは普通の使い方だが、さらにベゼルを回して第三の時間帯との時差分だけずらせば、24時間針がベゼル上で示す目盛りが第三時間帯になる。ロンドンに住む娘とニューヨークの取引先と東京の自分、といった三点の生活を一本で追える。私が16710を使っていた頃、この使い方を教えてくれたのは現役の国際線機長だった。道具は、本職の使い手から学ぶに限る。
ブレスレットについても実感を書いておく。現行の標準であるジュビリーは5連の細かいコマで、着け心地は歴代ロレックスの中でも最上級に柔らかい。一方で華やかさが出るため、無骨さを求めるなら3連のオイスターという選択になる。私は年齢とともにジュビリー派に転じた。長時間のフライトでは、手首への当たりの柔らかさがそのまま疲労の差になるからだ。
維持費についても触れておく。ロレックスの正規オーバーホールは5〜7年に一度、GMTマスター2クラスで約¥80,000〜110,000。GMT機構が入っても、この負担感は他のロレックスと大きくは変わらない。新品購入なら国際保証が5年付くので、最初の車検までは保証内で走れる計算になる。30年使えば総額で数十万円の維持費になるが、それを「高い」と感じるか「一生モノの整備代として当然」と感じるかが、この時計と長く付き合えるかどうかの分水嶺だ。
逆に言えば、第二時間帯に用のない人がベゼルの色だけで買うと、この時計の半分しか使えない。それならサブマリーナや、より入手しやすいスポーツモデルの方が幸福だろう。時計選びの全体地図はメンズ腕時計の選び方 完全ガイドに書いたとおり、機能は生活と接続して初めて意味を持つ。
結び──時差の向こう側にいる誰かのために
GMTマスター2は、2026年のいま、冷静に見れば「割高」な時計だ。定価178万円、実勢はその2倍。数字だけ見れば、私は誰にでも勧めることはできない。
それでも、羽田で黙り込んだ旧友は、数週間後にバットマンの中古を買った。ロンドンとの電話会議のたびに24時間針を見る、と言う。彼にとってあの時計は相場の産物ではなく、時差の向こう側にいる同僚と家族の時間を映す道具になっている。
70年前、パンナムの乗務員のために生まれた実用時計は、値段がどれだけ変わっても、その役割だけは変わっていない。二つの時間を生きる人にとって、これ以上の相棒はない──それが、40以上のブランドを渡り歩き、30年この時計たちを見てきた私の答えだ。あなたの生活に二つ目の時間帯があるなら、この時計は高くない。なければ、まだ買うときではない。
参考資料
- ロレックス公式 GMTマスターII — メーカー公式のモデル詳細・スペック情報
- 一般社団法人 日本時計協会 — 日本の時計産業統計と機械式時計の基礎知識
- ZENMAIのココ東京 GMTマスターII相場チェック(2026年2月) — 並行・中古実勢と改定後定価の確認に使用
- ロレックス専門店クォーク 126710BLNR商品ページ — 並行新品の販売価格水準の確認に使用
次に読む
- ロレックス完全ガイド:全モデルの序列と選び方の全体地図
- ロレックス デイトナ:入手難の頂点にある時計の現実
- ロレックスを中古で買う:一世代前のGMTを狙うならまずこれ
- メンズ腕時計の選び方 完全ガイド:予算別・年代別の基本方針
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よくある質問
- Q. ロレックス GMTマスター2の定価はいくらですか?
- 2026年1月の価格改定後、ステンレスのジュビリーブレスレット仕様(ペプシ126710BLRO・バットマン126710BLNR・グレー×黒の126710GRNR)はいずれも税込¥1,780,900です。オイスターブレスレット仕様はやや安く、バットマンで¥1,747,900が確認できます。改定前(2025年)のジュビリー仕様は¥1,664,300前後だったので、約7%の値上げでした。
- Q. ペプシとバットマン、どちらを選ぶべきですか?
- 予算と日常性を優先するならバットマン(青×黒)です。2026年前半の中古実勢は約280〜300万円とペプシより数十万〜百万円以上安く、ダークトーンでスーツに馴染みます。一方、1955年の初代から続く赤×青こそGMTマスターの記号であり、「GMTマスターという物語」を買うならペプシ以外にありません。私は歴史に価値を置く人にはペプシ、道具として使い倒す人にはバットマンと答えています。
- Q. GMTマスター2は正規店で買えますか?入手難易度はどのくらいですか?
- 現行スポーツロレックスの中でもデイトナに次ぐ入手難で、特にペプシは正規店での購入報告が最も少ないモデルの一つです。何年通っても買えない人がいる一方、並行店なら即日買えますが、2026年前半の並行新品はペプシ約430万円・バットマン約335万円と定価の2倍前後の資金が必要です。定価購入は「宝くじ」、並行は「時間をお金で買う行為」と割り切るのが現実的です。
- Q. いま高値のGMTマスター2を買って、損をしませんか?
- 2026年春はペプシの廃番観測などで相場が急伸し、買取でも400万円前後の水準がありました。噂で急騰した相場は反動も大きく、短期の値動きを当てにした購入には私は反対です。ただし過去10年を振り返れば実勢が定価を下回った時期はなく、10年20年使い切る前提なら高値掴みを過度に恐れる必要もありません。判断基準は「相場が3割下がっても着け続けたいか」の一点です。
About the author
川村 篤志
時計評論家 / コレクター歴30年・機械式時計 所有歴30年・40ブランド以上
機械式時計コレクター。所有歴のあるブランドは40以上、現役で稼働している手持ちは20本前後。雑誌寄稿100本超。「投機ではなく所有」を語る数少ない評論家。
Editor's note
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サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。