機械式時計のオーバーホール──料金相場・頻度・正規と民間の使い分け【2026年版】
機械式時計のオーバーホール料金は、正規でロレックス¥99,000〜・オメガ¥126,500〜(2026年)、民間専門店なら半額以下。30年で40回以上OHに出してきたコレクターが、頻度の正解、正規と民間の使い分け、OH歴が売却価格に与える影響まで実額で語る。
川村 篤志 時計評論家 / コレクター歴30年
公開: 2026年7月24日 更新: 2026年7月24日
「それ、新しい時計が買える値段じゃない」
オメガのクロノグラフの見積書──税込¥165,000──を眺めていた私に、妻が言った言葉だ。たしかに、国産の機械式なら新品が買える。それでも私はサインをした。なぜか。オーバーホールは出費ではなく、時計の寿命を30年単位で延ばす投資だと知っているからだ。
私は30年のコレクター生活で、通算40回以上オーバーホール(以下OH)に出してきた。支払った総額は、ざっと250万円を超える。高い授業料の中には、安さにつられて失敗した経験も含まれる。
このページでは、機械式時計のOHについて、2026年時点の料金相場(正規・民間)、頻度の正解、正規と民間の使い分け、そしてOH歴が売却価格=資産価値に与える影響まで、実額ベースで書く。これからOHを迎える人が、見積書の前で迷わないための記事だ。

オーバーホールとは何か──「分解掃除」では足りない説明
OHは日本語で「分解掃除」と訳されるが、この訳は実態の半分しか伝えていない。
機械式時計の中では、100〜300の部品が油の膜の上で擦れ合っている。この潤滑油は数年で乾き、汚れを抱き込んで研磨剤のように部品を削り始める。OHとは、ムーブメントを全部品まで分解し、洗浄し、摩耗部品を交換し、注油して組み直し、精度を調整し、防水パッキンを交換する、一連の外科手術だ。
ポイントは「掃除」ではなく「摩耗部品の交換」と「防水の回復」にある。外装がきれいでも、中の油は着実に劣化する。ここを理解すると、後述する頻度の議論が腑に落ちるはずだ。
機械式時計そのものの仕組みは機械式時計 入門に書いたので、初めての人はそちらから読んでほしい。
工程と期間──預けた時計に何が起きているか
OHに出した時計は、おおむね次の道筋をたどる。
- 受付・現状確認: 精度・防水・外装の状態を記録
- 見積もり: 分解して初めて分かる摩耗があるため、正式見積もりは分解後に出る
- 全分解: ムーブメントを部品単位までバラす
- 洗浄: 専用溶剤と超音波で古い油と金属粉を除去
- 部品交換: 摩耗・破損部品を交換
- 組立・注油: 部位ごとに粘度の違う油を使い分けて組み直す
- 精度調整: 姿勢差を測りながら歩度を追い込む
- 防水検査・ランニングテスト: パッキン交換のうえ加圧検査、数日間の実測
期間の目安は、私の経験では正規で3週間〜2ヶ月、民間で2週間〜1ヶ月。ボーナス期や年末は混み合って延びる。「来月の結婚式で着けたい」といった事情があるなら、逆算して早めに出すこと。時計が手元にない数週間は寂しいものだが、この工程を知っていれば、待つ時間の意味も変わってくるはずだ。
料金相場【2026年】──正規と民間の目安表
料金は2026年時点の公表情報と、修理業界の調査記事で確認した。まず全体像を表にする。
| ブランド・タイプ | 正規サービス(税込) | 民間専門店の基本料金 |
|---|---|---|
| ロレックス(3針・現行系) | ¥99,000〜 | ¥25,300〜 |
| ロレックス(旧型・一部モデル) | 〜¥121,000 | ¥25,300〜41,800 |
| ロレックス デイトナ | 約¥130,000〜 | 要見積もり |
| オメガ 機械式3針 | ¥126,500 | ¥22,000〜 |
| オメガ 機械式クロノグラフ | ¥165,000 | ¥38,500〜 |
| オメガ クォーツ3針 | ¥96,800 | ¥15,000前後〜 |
※正規はステンレスモデルの基本料金。金無垢・コンビは上がり、オメガの機械式クロノグラフは金無垢で¥198,000。ヴィンテージや特殊キャリバーはさらに高く、オメガでは¥385,000という区分もある。
※民間の「基本料金」は分解掃除のみの価格。部品交換は別料金で、見積もり後に加算される。ここを見落とすと「正規の半額のはずが、たいして変わらなかった」が起きる。
逆に、正規の基本料金には通常使用による摩耗部品の交換が含まれていることが多い。ロレックスの正規サービスはその代表で、外装の仕上げ直しまで込みで戻ってくる。つまり正規と民間の料金差は、見た目の数字ほど単純ではない。「基本料金の安さ」と「総額の安さ」は別の話──この一点だけでも、覚えて帰る価値がある。
なお、他ブランドの相場観をひとつの法則で言えば、クロノグラフは同ブランドの3針の1.3〜1.5倍。部品点数がそのまま工数に響くからで、これはどのメーカーでも大きく外れない。見積もりが法則から極端に外れていたら、理由を訊いていい。
正規料金は上がり続けている
体感を書いておく。オメガの正規OHは、私が通い始めた頃と比べて倍近くなった。直近では2026年3月に改定され、機械式3針は¥122,100から¥126,500へ、クロノグラフは¥157,300から¥165,000へ上がっている。ロレックスも同様で、かつて6〜7万円台だった基本料金は、今や¥99,000〜だ。
つまり、購入時の予算計画にOH費用を織り込むのが2026年の常識になった。¥150万円の時計を買うなら、10年で正規OH2回=¥25〜35万円が本体価格に上乗せされる、と考えておく。高い時計を「維持費まで含めて所有する」という感覚は、高い時計を着ける意味でも書いたとおりだ。
見積もりの読み方──追加費用が出やすい部品
「基本料金¥25,300〜」の広告を見て民間店に出したら、最終請求が¥60,000だった──という話は珍しくない。騙されたわけではなく、基本料金は「部品交換なしの分解掃除」の価格だからだ。分解後の見積もりで加算されやすいのは、経験上この辺りだ。
- リュウズ・巻真: 毎日触る場所だけに摩耗の定番。防水性能の要でもある
- ゼンマイ(香箱): 切れていなくても、へたっていれば交換を勧められる
- クロノグラフの切替車まわり: クロノ機は3針より部品点数が多く、その分だけ交換候補も増える
- パッキン類・風防: 防水検査に通らなければ必須交換
基本料金に部品代が2〜5万円乗るのは普通に起きる。だから店の比較は「基本料金」ではなく、分解後の正式見積もりを無料で出すか、見積もり後のキャンセルができるかで行うのが正しい。この2つを確認せずに預けてはいけない。
頻度の正解──「3〜5年」と「10年」の間
OH頻度には、二つの「公式見解」が並存している。
- メーカー公式: ロレックスは「およそ10年以内」と案内。近年のムーブメントは油と部品の改良で耐久性が上がった
- 修理の現場: 3〜5年周期を推奨。潤滑油の劣化やパッキンの寿命は5年前後で進むため
二つの見解が食い違うのには理由がある。メーカーの「10年」は、改良された最新ムーブメントを、保証や部品供給の体制込みで語る数字。修理現場の「3〜5年」は、油とパッキンという消耗品の寿命を、持ち込まれる古い個体も含めて語る数字だ。対象にしている時計が違うのだから、数字も違って当然なのである。
どちらが正しいのか。30年、自分の時計で人体実験をしてきた私の結論はこうだ。
基本は5年。ただし時計の使い方で伸縮させる。
- 毎日着ける主力機: 4〜5年。汗・温度変化・巻き上げ回数のすべてが負荷になる
- 週末だけの時計: 5〜7年
- 年数回のコレクション機: 精度と防水に異常がなければ10年近く延ばしても実害は出にくい
- ダイバーズで実際に水に入る人: パッキン点検だけは2〜3年ごとに
そして頻度より大事なサインがある。日差が急に変わったら、周期にかかわらず出す。それまで日差+5秒だった時計が+20秒になったら、中で何かが起きている。放置して摩耗が進むと、部品交換で費用が倍以上に膨らむ。
ひとつ誤解を解いておきたい。「動かさなければ劣化しない」は間違いだ。油は時計が止まっていても乾き、固まる。むしろ完全放置の個体は、固まった油が再始動時に抵抗になる。年数回しか着けない時計も、月に一度はゼンマイを巻いて数日動かす。私は月初の週末を「全部の時計を巻く日」と決めていて、20本を順に巻きながら状態を確かめるのが習慣になっている。異変はたいてい、この儀式の最中に見つかる。
正規と民間の使い分け──30年の結論
「正規と民間、どちらがいいか」という問いに、両論併記で逃げる記事が多い。私はタイプ別に言い切る。
正規に出すべきケース
- 現行〜10年落ちのモデル。純正部品の供給が万全で、仕上がりの再現性が高い
- 売却の可能性が少しでもある時計。メーカー明細が資産価値の裏付けになる(後述)
- 防水性能を本気で使う時計。加圧検査の設備と基準はメーカーが最も厳格だ
民間の熟練店に出すべきケース
- ヴィンテージ・生産終了モデル。正規は劣化部品を新品に交換する方針のため、オリジナルの針・文字盤・ベゼルが失われることがある。民間なら「現状維持で、交換は要相談」と指定できる
- 正規でサービス対象外になった古い機械。メーカーは一定より古い時計の受付を断ることがあるが、腕のいい独立時計師は部品を作ってでも直す
- 維持費を抑えて使い倒したい実用機。基本料金は正規の半額以下だ
注意点も言い切っておく。民間は店による技術差が極端に大きい。選ぶ基準は、①時計師の経歴(メーカー出身か)②部品交換の事前見積もりを必ず出すか③保証期間(最低1年)の3点。この基準は中古ロレックスの選び方で書いた店選びと同じ発想だ。
保証の違いも金額のうち
見落とされがちだが、OH後の保証は正規と民間で差がある。目安は正規2年、民間1年。しかも保証されるのは自然な動作不良だけで、磁気帯び・水入り・落下は正規でも保証対象外が普通だ。5年周期で考えると、正規の2年保証は「周期の4割をカバーする安心」であり、料金差の一部はここに払っていると考えれば、正規の価格にも一応の説明がつく。
OH歴は資産価値にどう効くか
ここは中古売買を経験した人間にしか書けない話だと思う。結論から言うと、OH歴は「あるかないか」より「誰の明細が残っているか」で効く。
売る側から見た現実
同じ個体でも、直近3年以内の正規OH明細がある時計は、査定がスムーズに通る。買取店は「次の買い手に、整備済みとして売れる」からだ。私の経験では、正規明細の有無で買取提示が数万円単位で変わったことが何度もある。民間OHの明細も無いよりはるかに良いが、店の知名度によって扱いは変わる。
だからOHの明細は、保証書と同じ引き出しに保管する。数字の裏を返せば、査定士は「OH歴が分からない時計=これからOH費用がかかる時計」として、正規OH1回分を提示額から引いてくるということだ。¥10万円の明細1枚が、そのまま¥10万円の値札として働く。紙切れと侮ってはいけない。
買う側から見た現実
中古を買うときは逆の立場になる。OH歴不明の個体は、購入後すぐにOHへ出す前提で、¥10〜16万円(正規の場合)を購入予算に足して考える。表示価格が安く見えても、OH費用を足すと高くつく個体は多い。
ヴィンテージだけは逆に働く
ここが面白いところで、ヴィンテージの世界では「正規でピカピカにOHされた個体」より「オリジナルのまま、必要最小限の整備で生きてきた個体」の方が高い。夜光の焼け、針の経年変化、ケースの未研磨。これらはOHで「直される」と戻らない。ロレックスのスポーツモデルの古い個体を持っている人は、正規に出す前に必ずコレクター相場を確認してほしい。ロレックス全体の相場観も併せて参照を。
私の失敗と、店選びの基準
授業料の話をする。
2004年頃、雑誌の裏表紙に載っていた格安修理業者に、オメガの3針を出したことがある。正規の半額以下、たしか¥28,000だった。戻ってきた時計は動いていた。だが数年後に売却へ出したとき、査定士に一言で見抜かれた。「リュウズ、非純正ですね」。交換の連絡は受けていなかった。減額は、浮かせたOH代よりずっと大きかった。安く済ませたつもりが、いちばん高いOHになったわけだ。
逆の失敗もある。2018年頃、1960年代の手巻き時計を軽い気持ちで正規サービスに持ち込んだところ、「部品供給が終了しており、お受けできません」と丁重に断られた。途方に暮れて探し当てた独立時計師は、摩耗した部品を旋盤で削り出して直してくれた。費用は正規の見積もり感覚を超えたが、あの時計は今も動いている。新しい時計は正規が強く、古い時計は職人が強い。この非対称を知っているだけで、持ち込み先の迷いはだいぶ減る。
以来、私の店選びは3つの基準で固定している。
- 交換部品を、交換前に写真つきで連絡してくる店
- 時計師の名前と経歴を明かしている店
- 安さを一番の看板にしていない店
今は正規と、20年付き合いのある民間の工房を、時計ごとに使い分けている。1995年に買ったシーマスターは5回のOHを経て、31年目の今も日差数秒で動いている。累計の維持費は約¥35万円。新品価格を超えたが、31年動く道具に払った額としては安いとすら思う。
出す前の準備──損しないための4つ
最後に、OHに出す当日の作法を書いておく。長年の経験から、これをやるかどうかで仕上がりも金額も変わる。
- 症状をメモして渡す: 「日差+20秒、文字盤を上にすると進む、朝に止まっていることがある」。具体的なほど診断が速く、無駄な作業が減る
- 預ける前に全体の写真を撮る: 外装のキズの位置を記録しておく。研磨の要否の相談や、万一のトラブル時の証拠になる
- 社外ストラップや自分で替えたパーツは外して伝える: 純正状態が分からないと、店は判断に困る
- 2店以上で見積もりを取る(初めての店の場合): 金額だけでなく、説明の丁寧さを比べる。説明が雑な店は作業も雑だ、というのが40回の経験則だ
結び──維持費まで含めて、所有である
機械式時計は、買った日に関係が終わる商品ではない。5年ごとに健康診断を受けさせ、そのたびに¥10万円前後を払う。この維持費を「高い」と感じる人には、正直、機械式時計は向かない。クォーツは優秀で、スマートウォッチは便利だ。無理に機械式を選ぶ理由は、どこにもない。それでも選ぶ人のための道具なのだ、これは。
だが、OHから戻ってきた時計を受け取る瞬間の感覚は、機械式にしかない。磨かれたケース、回復した防水、整えられた日差。30年前の機械が、これからも30年動くと保証される──この体験に私は40回、金を払ってきた。後悔したのは、安さで選んだ数回だけだ。
時計選びの全体像はメンズ腕時計の選び方 完全ガイドにまとめてある。これから最初の1本を買う人は、本体価格に「10年でOH2回分」を足した金額で予算を組んでほしい。それが、機械式時計と長く付き合う人の計算式だ。
参考資料
- WATCH COMPANY ロレックス正規オーバーホール価格調査(2026年版) — ロレックス正規料金の確認に使用
- WATCH COMPANY オメガ正規オーバーホール価格調査(2026年3月改定) — オメガ正規料金・改定前後の比較に使用
- 一般社団法人 日本時計協会 — 機械式時計の構造とメンテナンスの基礎知識
次に読む
- 機械式時計 入門:そもそも機械式とは何か、から
- ロレックス 中古:OH歴の読み方は中古選びの核心
- オメガ シーマスター:31年・OH5回で動き続ける私の実例
- 高い時計を着ける意味:維持費を払ってまで持つ理由
「大人の趣味」では、本物志向の道具と長く付き合う知恵を、専門家5名が綴っています。編集方針はこちら。
よくある質問
- Q. 機械式時計のオーバーホール料金はいくらですか?
- 2026年時点の正規料金の目安は、ロレックスが¥99,000〜121,000、オメガが機械式3針¥126,500・機械式クロノグラフ¥165,000(いずれも税込・ステンレス)。金無垢やコンビは1〜3割増しです。民間の時計修理専門店なら、ロレックスで¥25,300〜、オメガ3針で¥22,000〜と半額以下ですが、部品交換が発生すると別料金が加算されます。
- Q. オーバーホールの頻度はどれくらいが正解ですか?
- ロレックス公式は「およそ10年以内」と案内していますが、修理の現場では3〜5年周期を勧める声が主流です。潤滑油の劣化は5年前後から進むためです。私は30年の経験から「基本5年、日差が急に変わったら前倒し」を目安にしています。毎日着ける時計は早めに、年に数回しか着けない時計は10年近く延ばしても実害が出にくい、というのが実感です。
- Q. 正規サービスと民間修理店、どちらに出すべきですか?
- 現行モデルで、将来売却する可能性が少しでもあるなら正規。メーカー発行の明細が査定の裏付けになります。ヴィンテージや生産終了モデルは、オリジナル部品を残す方針を指定できる民間の熟練店が向きます。正規は劣化部品を積極的に交換するため、オリジナルの針や文字盤が新品部品に置き換わり、かえってコレクター価値が下がる場合があるからです。
- Q. オーバーホールをしないと、時計はどうなりますか?
- すぐには止まりません。それが一番怖いところです。油が切れたまま数年動き続けると、歯車の軸が摩耗し、本来¥10万前後で済んだはずのOHが、部品交換込みで¥20〜30万円に膨らみます。摩耗した部品が廃番だと修理不能になることさえあります。「止まってから出す」が最も高くつく、と覚えてください。
About the author
川村 篤志
時計評論家 / コレクター歴30年・機械式時計 所有歴30年・40ブランド以上
機械式時計コレクター。所有歴のあるブランドは40以上、現役で稼働している手持ちは20本前後。雑誌寄稿100本超。「投機ではなく所有」を語る数少ない評論家。
Editor's note
編集後記とエッセイは、note で。
サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。