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オーデマピゲ ロイヤルオーク──1972年の革命と16202、2026年の定価と実勢

現行ロイヤルオーク"ジャンボ"16202STの定価は¥5,555,000、市場実勢は1,000万円超(2026年)。1972年にジェラルド・ジェンタが起こした革命は、50年を経てなお終わらない。時計コレクター歴30年・40ブランド以上を所有してきた私が、系譜と相場、ノーチラスとの選び方まで言い切る。

川村 篤志 時計評論家 / コレクター歴30年

公開: 2026年7月24日 更新: 2026年7月24日

オーデマピゲ ロイヤルオーク──1972年の革命と16202、2026年の定価と実勢

「ロイヤルオークとノーチラス、最後の一本ならどちらですか」

昨秋、時計仲間の集まりで隣に座った40代の外科医に、こう聞かれた。彼はすでにロレックスを3本持っていて、次の一本で「上がり」にしたいという。私は即答できなかった。この2本は、同じ男が描いた兄弟でありながら、性格がまるで違うからだ。

オーデマピゲ ロイヤルオークは、1972年にジェラルド・ジェンタがデザインした「世界初のラグジュアリー・スチール・スポーツウォッチ」だ。ノーチラスより4年早い。つまり、革命はこちらが先だった。

この記事では、コレクター歴30年の私が、1972年の誕生秘話から「ジャンボ」の系譜、2026年の定価と中古実勢、そしてノーチラスとの選び方まで、体験ベースで綴る。投機の話ではない。所有の話だ。

オーデマピゲ ロイヤルオーク風の八角形ベゼルを持つラグジュアリースポーツウォッチ

1972年──ジェラルド・ジェンタが一晩で描いた八角形

1970年代初頭、スイス時計産業はクォーツショックの足音に怯えていた。オーデマピゲの経営陣が、バーゼルフェアを目前に控えたある夜、デザイナーのジェラルド・ジェンタに電話をかけ、「前例のない高級スチールウォッチ」を依頼した──そして翌朝までに、あの八角形が描かれていた。この逸話は業界で半ば伝説として語られるが、ジェンタ本人が生前繰り返し語っていた話でもある。

デザインの着想源は、潜水士のヘルメットだ。八角形のベゼルを8本のビスで締め付ける構造は、船の舷窓や潜水ヘルメットの固定金具を思わせる。機能部品であるはずのビスを、あえて意匠として表に見せる。この「構造の美」こそ、ロイヤルオークの本質だと私は考えている。

1972年に発表された初代Ref.5402STの価格は3,300スイスフラン。当時の一般的なスチール製時計の約10倍、金無垢のドレスウォッチさえ上回る値付けだった。「ステンレスの時計に金の値段を払う人間がいるのか」と、当時の業界は嘲笑したと伝えられる。結果はご存知のとおりだ。この一本が「高級スポーツウォッチ」というジャンルそのものを発明し、4年後のパテックフィリップ ノーチラス、そして現代に続く全てのラグジュアリースポーツウォッチの原型となった。

オーデマピゲという会社についても、少しだけ書いておきたい。1875年、スイス・ジュウ渓谷のル・ブラッシュで時計師ジュール=ルイ・オーデマールとエドワード=オーギュスト・ピゲが創業して以来、150年にわたり創業家が経営に関与し続ける、時計業界でも数少ない独立系マニュファクチュールだ。ロイヤルオークという博打を打てたのも、株主の顔色ではなく自分たちの信念で経営判断ができる独立系だったからだと、私は思っている。パテックフィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンと並び「世界三大時計ブランド」と呼ばれるが、その中で最も攻めた経営判断を重ねてきたのがオーデマピゲである。

クォーツの時代に、機械式の頂点で答えた

背景も押さえておこう。1969年にセイコーが世界初の市販クォーツ腕時計を発売し、スイスの機械式時計は「正確さ」で永遠に勝てなくなった。多くのメーカーが価格競争と量産化に走る中、オーデマピゲの出した答えは真逆だった。精度で勝てないなら、工芸で勝つ。スチールという日常の素材に金無垢以上の仕上げ工数を注ぎ込み、時計を「時間を知る道具」から「腕の上の彫刻」へ再定義する。ロイヤルオークが革命と呼ばれるのは、単に高価なスチール時計だったからではない。機械式時計の存在理由そのものを書き換えたからだ。

革命の中身は「薄さ」だった

見た目の話だけでは、ロイヤルオークの半分しか語れていない。初代5402STのケース厚は約7mm。この薄さを支えたのが、ジャガー・ルクルトの名機Cal.920をベースにした自動巻きCal.2121で、ムーブメント単体の厚さはわずか3.05mmしかない。

私は15202ST(Cal.2121搭載の後継ジャンボ)を友人から借りて2週間着けたことがあるが、あの「シャツの袖口に引っかからない薄さ」と「ブレスレットが腕に溶ける一体感」は、スペック表では絶対に伝わらない。ケースからブレスレットまで途切れなく続くサテン仕上げとポリッシュの面取り──仕上げの工数だけなら、同価格帯のどの時計よりも贅沢だと断言できる。

「ジャンボ」の系譜──5402STから15202、そして16202へ

ロイヤルオークの中核は、初代の血を直接引く「ジャンボ」と呼ばれる39mm薄型ラインだ。系譜を整理する。

初代 Ref.5402ST(1972-1990年代)

39mm径・厚さ約7mm。発表当時、メンズ時計の主流は34-36mmであり、39mmは「ジャンボ=巨大」と呼ばれた。今の感覚では標準サイズというのが面白い。ヴィンテージ市場では個体差が大きく、状態の良い初期シリアルは別格の扱いを受ける。

なお、発売当初は苦戦したというのが定説だ。イタリア市場での人気を足がかりに、時間をかけて伝説へ育っていった。「発売即完売の熱狂」ではなく、評価が後から追いついた時計であることは、記録しておきたい。

もうひとつ、文字盤の話をしておく。「タペストリー」と呼ばれる格子模様は、プレス加工ではなく、パンタグラフ式の彫刻機で一枚ずつギヨシェ彫りされている。斜めから光を当てると、小さなピラミッドの側面が順に光を返す。ロイヤルオークの文字盤が単色なのに一切退屈しない理由は、この立体構造にある。

Ref.15202ST(2000年代-2022年)

「ジャンボ・エクストラシン」の名を確立した中興の祖。Cal.2121を最後まで積み続けた、初代の忠実な後継だ。2022年、ロイヤルオーク50周年を機に生産終了。廃番発表後に相場は急騰し、私の記録では2026年に入っても買取価格で¥830万〜920万、店頭の中古販売実勢は約900万〜1,300万円で推移している。ピーク時には買取¥1,230万という数字も見た。

現行 Ref.16202ST(2022年-)

50周年で登場した現行ジャンボ。39mm×厚さ8.1mmのプロポーションは15202STをほぼ踏襲しつつ、中身は50年ぶりの新型自社ムーブメントCal.7121に一新された。振動数は毎時28,800振動へ高速化され、実用精度と耐久性は明確に向上している。文字盤は「ブルー・ニュアンス50」と呼ばれる、初代へのオマージュとなるプチ・タペストリー模様のスモークブルーだ。

Cal.2121の「歴史」を取るか、Cal.7121の「完成度」を取るか。コレクター同士でも意見が割れるところだが、私は16202STを支持する。50年前の設計を敬いながら、堂々と現代の答えを出した。それは思考停止の復刻より誠実だ。

現行ロイヤルオーク主要モデルと2026年定価・実勢

2026年1月時点の国内定価と、私が定点観測している市場実勢を整理する。

モデルRef.サイズ定価(2026年1月)市場実勢
ジャンボ エクストラシン16202ST39mm¥5,555,000約1,000万〜1,200万円
セルフワインディング 41mm15510ST41mm¥4,400,000約700万円前後
セルフワインディング 37mm15550ST37mm¥4,180,000定価超で推移
ジャンボ 15202ST(廃番)15202ST39mm─(2022年終了)約900万〜1,300万円

16202STは2026年7月時点で買取上限¥9,800,000という数字が公表されており、店頭販売は1,000万円を超える水準が常態化している。定価¥5,555,000に対して約2倍。この乖離は2022年の発売以来、一度も解消されていない。

補足しておくと、41mmの15510STは市場推計で約¥698万(定価の約1.6倍)と、ジャンボよりは現実的な乖離に収まっている。「ロイヤルオークが欲しいが1,000万円は出せない」という方にとって、実勢700万円前後の15510STが事実上の入口になっているのが2026年の現実だ。

37mmの15550STにも触れておく価値がある。「小さすぎないか」とよく聞かれるが、ロイヤルオークは一体型ブレスレットのおかげで公称径より一回り大きく見える。腕周り16cm台の日本人には、41mmより37〜39mmの方が明らかに収まりが良い。実物を着けずにサイズを決めることだけは、やめてほしい。

また、ジャンボにはイエローゴールドの16202BA、ピンクゴールドの16202ORといったゴールド無垢の展開もあるが、国内定価は「要問合せ」扱いで、実勢はスチール以上のプレミアムが付く別世界だ。予算が青天井でないなら、まずはスチールの3型から考えるのが現実的である。

高い時計に何を払っているのかという根源的な問いは、高級時計を買う意味で別途論じたので、そちらも読んでほしい。

ロイヤルオーク vs ノーチラス──ジェンタ二大傑作をどう選ぶか

冒頭の外科医の質問に戻ろう。同じジェラルド・ジェンタの手による二大傑作は、こう比較できる。

項目ロイヤルオーク 16202STノーチラス 5811/1G
誕生年1972年1976年
現行の素材ステンレスホワイトゴールドのみ
定価¥5,555,000¥11,910,000(2026年1月改定後)
市場実勢約1,000万〜1,200万円約2,500万〜4,000万円
スチール現行モデルあるない(5711は2021年廃番)
デザインの性格直線と角、緊張感曲線と丸み、余裕

決定的な違いは一つ。パテックフィリップはスチール3針ノーチラスをもう作っていないが、オーデマピゲはスチールのジャンボを今も現行で作っていることだ。

つまり「ジェンタのスチール傑作を、現行品として、メーカー保証付きで手に入れる」という選択肢は、2026年現在ロイヤルオークにしか残されていない。私はこの一点で、これから買う人にはロイヤルオークを推す。ノーチラスは既に「買う時計」ではなく「探す時計」になってしまった。

両者は「廃番の物語」まで対になっている。パテックがスチール3針の5711を廃番にしたのは2021年、APが15202を廃番にしたのは翌2022年。ほぼ同時期に「スチールの伝説」を絶ちながら、パテックは後継5811をホワイトゴールドへ逃がし、APはスチールのまま16202を出した。この判断の違いに、両社の性格がいちばん出ていると私は思う。ノーチラスは神格化を選び、ロイヤルオークは現役であり続けることを選んだ。

デザインの好みで言えば、直線的でエッジの立ったロイヤルオークは腕の上で「鳴る」時計、丸みを帯びたノーチラスは「馴染む」時計だ。スーツの袖口から覗いたときの存在感はロイヤルオークが勝る。一方で、あらゆる場面に溶け込む柔らかさはノーチラスのものだ。

ロレックスのデイトナサブマリーナと迷う方もいるだろうが、あちらは「実用の頂点」、こちらは「デザインの頂点」。競合ではなく別の山だと考えたほうがいい。

買う前に知っておくべき4つの現実

30年この市場を見てきた者として、ロイヤルオークを買う前に知っておくべき現実を4つ挙げる。

現実1: 正規店で「初見の客」が16202STを買うのはほぼ不可能

オーデマピゲは近年、販売網を直営のAP Houseとブティックに集約した。人気モデルは購入履歴のある顧客への優先案内が実態で、ふらりと入って16202STが買えることは、まずない。関係構築には年単位の時間と、エントリーモデルからの購入実績が必要だ。この構図はノーチラスの正規購入とまったく同じである。

現実2: 並行・中古はプレミアム約2倍を受け入れる世界

並行新品・中古美品の実勢は約1,000万〜1,200万円。定価の約2倍を「デザインの唯一性への対価」と割り切れるかどうか。割り切れないなら、実勢が定価の1.6倍程度に収まる41mmの15510ST、あるいは廃番15202STの状態の良い中古を探すほうが、精神衛生上はるかに健全だ。

なお、リセールは強い。16202STは「買った瞬間に価値が下がる」どころか、定価で買えた人にとっては含み益にすらなる市場が続いてきた。ただし相場は2022年前後のピークからは落ち着いており、「上がり続ける前提」で買うのは投機だ。私は勧めない。

現実3: 薄型ゆえの扱いには気を使う

ジャンボは厚さ8.1mmの薄型ドレス構造に、一体型ブレスレットが組み合わさっている。堅牢性はロレックスのスポーツモデルとは比較にならない。デスクワークでの擦り傷、ドアノブへの打痕──サテン仕上げの面は一発で傷が目立つ。私の周囲では「ロイヤルオークは2本目以降の時計」と言う人が多いが、これは正しい。毎日ガシガシ使う一本目には向かない。

現実4: 維持費も一級品

オーバーホールは正規で数年に一度、十数万円からが目安になる。一体型ブレスレットの仕上げ直し──サテンとポリッシュの面を工場で再生する作業──まで頼めば、さらに積み上がる。ロイヤルオークの美しさの大半はあの面の仕上げにあるのだから、仕上げ直しを省く選択は本末転倒だ。買値だけでなく、10年単位の維持費まで含めて「所有コスト」と考えてほしい。

一本目の選び方から整理したい方は、メンズ腕時計の選び方 完全ガイドを先に読んでほしい。

最後に──八角形が教えてくれること

冒頭の外科医には、最終的にこう答えた。「現実に買えて、後悔しないのはロイヤルオークです」と。彼は半年かけて15510STを正規で手に入れ、先日その腕元を見せてもらった。良い顔をしていた。

ロイヤルオークは、1972年に「スチールに金以上の価値を与える」という無謀な賭けから生まれた。50年後の今、その賭けは定価の2倍という市場価格が証明するとおり、完勝に終わっている。だが私がこの時計に払う敬意は、価格の話ではない。機能部品のビスすら美に変えた設計思想が、半世紀を経ても一切古びていないという事実に対してだ。

付け加えるなら、ロイヤルオークは「見せる時計」だと誤解されがちだが、私の実感は逆だ。腕にあるとき、持ち主にしか見えない情報量──面取りの光、ビスの整列、ブレスレットの追従──が圧倒的に多い。他人の視線のために買うと後悔し、自分の目のために買うと満足する。50年前から、そういう時計である。

流行りで買う時計ではない。八角形を「自分の形」だと思えた人だけが買えばいい。そう思えたなら、この時計は間違いなく、あなたの残りの人生に付き合い切ってくれる。

参考資料


次に読む

「大人の趣味」では、本物志向の道具と長く付き合う知恵を、専門家5名が綴っています。編集方針はこちら

よくある質問

Q. オーデマピゲ ロイヤルオークの定価と実勢価格を教えてください。
現行"ジャンボ"エクストラシン16202ST(39mm・ステンレス)の国内定価は¥5,555,000、41mmの15510STは¥4,400,000、37mmの15550STは¥4,180,000です(2026年1月時点)。市場実勢は16202STで買取上限が¥9,800,000(2026年7月)、店頭販売は1,000万円を超える水準が続いており、定価の約2倍という乖離が常態化しています。
Q. ロイヤルオークの「ジャンボ」とは何を指しますか?
1972年の初代Ref.5402STの系譜に連なる、39mm径・厚さ約8.1mmの薄型モデルの愛称です。発表当時39mmは異例の大きさで「ジャンボ」と呼ばれました。5402ST→15202ST(2022年生産終了)→現行16202STと受け継がれ、16202STからは50年ぶりの新型自社ムーブメントCal.7121を搭載しています。廃番となった15202STの中古実勢は約900万〜1,300万円です。
Q. ロイヤルオークとノーチラス、どちらを選ぶべきですか?
時計評論30年の結論として、「今スチールの傑作を現実に買えるのはロイヤルオーク」です。パテックフィリップはスチール3針のノーチラス5711を2021年に廃番とし、現行5811はホワイトゴールドで定価¥11,910,000。一方ロイヤルオークはスチールの16202STが定価¥5,555,000で現行販売されています。デザインの緊張感ならロイヤルオーク、丸みと格ならノーチラス、というのが私の使い分けです。
Q. ロイヤルオークは正規店で定価購入できますか?
極めて困難です。オーデマピゲは販売を直営のAP Houseとブティックに集約しており、人気モデルは購入履歴のある顧客への優先案内が実態です。初めての来店で16202STを買える可能性はほぼありません。現実的には①エントリーモデルから購入実績を積む②並行店で実勢約1,000万円超を受け入れる③廃番15202STの中古を狙う、の3択になります。

About the author

川村 篤志

時計評論家 / コレクター歴30年・機械式時計 所有歴30年・40ブランド以上

機械式時計コレクター。所有歴のあるブランドは40以上、現役で稼働している手持ちは20本前後。雑誌寄稿100本超。「投機ではなく所有」を語る数少ない評論家。

Editor's note

編集後記とエッセイは、note で。

サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。

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