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ロレックス デイデイト──「社長の時計」の定価681万円からと鋼モデルが無い理由

デイデイトに鋼のモデルは存在しない。金無垢とプラチナのみで、定価は36mmイエローゴールドの681万1,200円から40mmプラチナの1,020万8,000円まで。1956年に世界初の曜日全綴り表示を実現した「社長の時計」の現行型番とプレジデントブレスの由来を、30年見てきた私が整理した。

川村 篤志 時計評論家 / コレクター歴30年

公開: 2026年8月24日 更新: 2026年8月24日

ロレックス デイデイト──「社長の時計」の定価681万円からと鋼モデルが無い理由

「これね、父から譲られたものなんです」

取材で通された役員応接室で、60代の会長がそう言って袖口を少し引いた。イエローゴールドのケース、12時のアーチ窓に曜日、3時に日付。デイデイトだった。文字盤は経年で薄く飴色に沈み、ブレスレットのリンクは長年の摩耗でわずかに遊びが出ていた。40年近く同じ手首に乗り続けた個体だと、一目で分かった。

デイデイトは「社長の時計」と呼ばれる。私はこの手垢のついた通称があまり好きではない。だがあの応接室で見たものは、確かにその言葉に見合っていた。金無垢だから偉く見えるのではない。同じ時計を40年着け続けた人間の手首が、そう見せるのだ。

この記事では、コレクター歴30年の私が、デイデイトに鋼のモデルが一本も存在しない理由、1956年に世界初の曜日全綴り表示を実現した技術の意味、現行36mm・40mmの2026年8月時点の定価、プレジデントブレスレットという名前の正しい由来、そして「社長の時計」を実際に買うときの現実を、順に整理する。

イエローゴールドのケースと12時位置の曜日表示窓を備えた腕時計を着けたスーツの袖口

1956年、曜日を「言葉」で見せた最初の時計

デイデイトの出発点は1956年だ。ロレックスは1945年のデイトジャストで日付の窓表示を実用化していたが、デイデイトが持ち込んだのはその先だった。12時位置に開いたアーチ状の窓に、曜日を略さず、綴りのまま表示する。MONDAY、TUESDAY──省略記号ではなく単語として読ませる。これを自動巻の腕時計で成立させたのは、デイデイトが世界で初めてだった。

言葉にすると地味に聞こえるかもしれない。だが機構としては簡単な話ではない。3時位置の日付ディスクに加え、12時位置に幅のある曜日ディスクを載せ、真夜中に両方を瞬時に切り替える。この二重の瞬間切替を、防水ケースの厚みを保ったまま押し込む必要があった。1956年という年に、この設計を量産に乗せた事実の方が、通称よりずっと重いと私は思っている。

もう一つ、カタログを読むだけでは見落とされる特徴がある。曜日表示は26以上の言語から選べる。ラテン文字だけでなく、アラビア語、キリル文字、ヘブライ語、漢字、そしてエチオピアのゲエズ文字まで用意されている。世界中の元首に配るための時計だと言われれば、なるほどと納得する仕様だ。日本語表記のデイデイトは中古市場でときおり出てくるが、私は一度、月曜から日曜まで漢字で回る個体を触ったことがある。妙な感慨があった。

系譜を駆け足で追う。1959年から70年代まで続いたRef.1803が最初の大定番で、1977年のRef.18038でクイックセットとサファイアクリスタルを獲得。1988年のRef.18238でCal.3155世代に入り、2000年のRef.118238へ。そして2015年に40mmのRef.228xxx(Cal.3255)が登場し、2019年に36mmのRef.128xxxが追随して、現在の二本立てになった。現行のCal.3255はパワーリザーブ約70時間、日差−2〜+2秒の自社基準をクリアする。

ステンレスのデイデイトが一本も存在しない理由

デイデイトを語るとき、最初に押さえるべき事実はここだ。ロレックスはデイデイトを鋼で作ったことが一度もない。

18ctのイエロー、ホワイト、エバーローズゴールド、そして950プラチナ。この四種類だけだ。スチールとゴールドのコンビ、つまりロレックスが「ロレゾール」と呼ぶ組み合わせすら、デイデイトには存在しない。サブマリーナにもデイトジャストにもGMTマスターにもコンビがあるのに、デイデイトだけは頑なに貴金属無垢を守り続けている。

これは在庫戦略の話ではなく、線引きの話だ。曜日と日付を出す機構はデイトジャストの発展形であり、技術的には鋼のケースに入れられる。だがロレックスはそれをやらない。鋼の実用時計はデイトジャスト(¥1,208,900〜)が担い、その上に貴金属専用の頂点としてデイデイトを置く。カタログ全体の序列がこの一線で締まっている。全モデルの並び方はロレックス完全ガイドで一枚の地図にまとめたので、位置関係が気になる方はそちらを見てほしい。

購入者側にとって、この事実は一つの現実的な意味を持つ。デイデイトには「安い入口」が構造上ありえない。中古市場でも最低ラインは金の地金価格に支えられており、状態が悪い個体でも極端には落ちない。裏返せば、初めての高級時計としてデイデイトを選ぶ人は、ほぼ確実に金無垢の重さと価格に真正面から向き合うことになる。私はそれを悪いことだとは思わない。ごまかしの余地がないという意味で、むしろ誠実なモデルだ。

現行デイデイトの定価一覧(2026年8月時点)

数字を正確に並べる。以下はロレックス正規販売店が公開している税込定価で、2026年は1月と6月の二度、価格改定が入っている。ゴールドとプラチナの相場高騰がそのまま反映された年だった。

モデル型番素材ケース径定価(税込)
デイデイト3612823818ct イエローゴールド36mm¥6,811,200
デイデイト3612823518ct エバーローズゴールド36mm¥7,832,000
デイデイト36128236950 プラチナ36mm¥9,506,200
デイデイト36128399TBR18ct WG・ダイヤ36mm¥15,328,500
デイデイト4022823818ct イエローゴールド40mm¥7,481,100
デイデイト4022823518ct エバーローズゴールド40mm¥8,044,300
デイデイト4022823918ct ホワイトゴールド40mm¥8,044,300
デイデイト40228236950 プラチナ40mm¥10,208,000

読み取れることを三つ挙げたい。

同じ径ならイエローゴールドが最も安い。 36mmの128238が¥6,811,200で、これがデイデイト全体の入口だ。エバーローズは同径で約100万円、プラチナは約270万円上に乗る。素材の地金価格と加工難度がそのまま階段になっている。

36mmと40mmの差は約67万円。 128238と228238で¥670,000弱の開きがある。ケースが4mm大きいだけでこの差というのは、要するに使っている金の量が違うからだ。この価格差の性格は、スチールモデルの径違いとはまったく別物だと理解しておきたい。

プラチナは別の生き物。 40mmの228236が¥10,208,000。950プラチナは金より重く、加工でも削り出しでも工具を消耗させる素材だ。実物を手に取ると、価格以上に「密度で殴られる」感覚がある。ロレックス全体の価格帯の中でデイデイトがどこに座っているかはロレックス 定価一覧で他モデルと並べて確認できる。

なお、上の表はカタログの主要構成を抜いたものだ。実際には文字盤の素材(オニキス、カーネリアン、隕石、オンブレ仕上げ)やベゼルのダイヤモンドセッティングでさらに細かく枝分かれし、宝飾仕様は2,000万円を超える個体も存在する。

プレジデントブレスレットという名前の正しい由来

デイデイトを象徴するのが、半円型のリンクを三列に並べたブレスレットだ。ロレックスはこれを正式に「プレジデント」と呼ぶ。1956年、デイデイトと同時に登場した専用ブレスレットで、以後デイデイトの標準装備として定着した。

名前の由来としてよく語られるのが、アイゼンハワー大統領のエピソードだ。ここは正確を期したい。アイゼンハワーに贈られたのは金無垢の**デイトジャスト(Ref.6305)**で、ロレックスが公式認定した15万本目のクロノメーターだった。彼がそれを着けた姿は1952年7月21日のLIFE誌の表紙になっている。つまりこの話は、デイデイト発表の1956年より前の出来事だ。

「大統領の時計=デイデイト」というイメージが固まったのは、その後の世代である。ジョンソン、フォード、レーガンといった歴代大統領がデイデイトを着用し、貴金属専用という素材構成と相まって、通称が独り歩きした。雑誌の記事では「アイゼンハワーのデイデイト」と書かれていることが今でもあるが、時系列が合っていない。こういう小さな取り違えは、時計の世界にはいくらでも転がっている。

実務的な注意点も一つ。「プレジデント」はブレスレットの名前であって、モデル名ではない。中古市場やオークションで「ロレックス プレジデント」と表記されている出物は、ほぼデイデイトを指している。逆に、プレジデントブレスを装着したデイトジャスト(いわゆるデイトジャスト・プレジデント)も存在するため、型番で確認する習慣をつけたい。真贋の見極め手順はロレックスの偽物を見分ける方法にまとめている。金無垢モデルは、メッキの偽物なら重量で即座に見当がつく点だけ先に言っておく。

36mmと40mm、どちらを選ぶか

現行は36mmと40mmの二本立てだ。41mmは存在しない。この二択で迷う相談を、私は年に何度も受ける。

私の基準はこうだ。手首周りが16.5cm以下、あるいはスーツとシャツの袖口が日常なら36mm。17cm以上でジャケット主体、時計に存在感を求めるなら40mm。ここまではサイズ選びの一般論と同じで、径と手首の関係は腕時計のサイズ選びで数値と一緒に整理してある。

ただしデイデイトには一つ、他のモデルにない変数がある。重さだ。18ctゴールドの比重はステンレスの約2倍ある。同じ40mmでも、スチールのサブマリーナと金無垢のデイデイトはまったく別の重量感になる。プレジデントブレスは半円型リンクの塊なので、ブレスレット側の重量も相当だ。デスクワーク中に手首の内側へ回り込んでくる感覚は、金無垢を常用したことがある人なら分かるはずだ。試着では10分では判断できない。可能なら店頭で20分は着けたまま話をさせてもらうといい。

そしてもう一つ。デイデイトを買う年齢についてだ。私は40mmを選ぶ人には、ほぼ例外なく「その径を選ぶ理由が、見せたいからではないか」と一度確認する。この時計は放っておいても目立つ。自分から前に出る必要はない。年代ごとの一本選びの考え方は年代別・腕時計の予算と選び方に書いたが、デイデイトに関しては、若くして買える人ほど36mmを検討したほうがいいと思っている。

私自身の結論は36mmだ。デイデイトの本質は、袖口に半分隠れている状態の品格にある。全部見えてしまうと、この時計は少し声が大きい。

中古実勢と、買うときの現実

中古市場の温度を数字で押さえる。相場データベースの集計では、2026年7月末時点でデイデイト全体の中古平均は約719万円、前年比で3割前後の上昇となっている。牽引しているのは相場そのものより地金だ。金とプラチナが上げた分、下値が丸ごと持ち上がった。

ゴールドモデルは定価の7割以上で取引される例が多く、かつて言われた「金無垢は中古で大きく割れる」という常識は、少なくとも現状には当てはまらない。ただし一律ではない。ダイヤモンドをセットした宝飾系は流行と個体差の影響が大きく、査定のブレも激しい。モデル別の値動きの癖はロレックスの資産価値と買取相場に整理した。

買う前に見込んでおくべきコストが二つある。

オーバーホール。 曜日と日付の二重瞬間切替を持つ機構なので、分解調整の手間は三針モデルより重い。ロレックスの正規オーバーホールは¥99,000〜121,000程度が目安で、金無垢は外装仕上げの取り扱いも慎重になる。手順と期間の実際は腕時計のオーバーホールにまとめた。5〜10年に一度、この金額が定期的に発生する前提で予算を組みたい。

外装の消耗。 金は柔らかい。スチールなら残らない程度の接触で、金無垢は跡が付く。プレジデントブレスは長年使うとリンク間に遊びが出て、伸びとして現れる。40年使われたあの会長の個体がまさにそれだった。ただ私は、あの緩みを欠点だと思わなかった。あれは使い込んだ証明であり、鋼の時計には出せない種類の経年だ。

正規で買うか、中古で買うか。デイデイトはスポーツモデルほどの入手難ではなく、正規店の在庫が回っている部類に入る。定価で買える可能性が十分あるモデルだということは、覚えておいて損はない。予算全体の設計から考えたい方はメンズ腕時計の選び方 完全ガイドを先に読んでほしい。デイデイトは「予算内で最上位を狙う」時計ではなく、「予算が余ったところに置く」時計だと私は考えている。

最後に──名刺より先に見られる場所

デイデイトを「成功の証明」として語る文章が世の中には多い。私はその見方を採らない。証明が必要な人が着ける時計は、たいてい借り物に見える。

あの応接室の会長は、デイデイトについて一言も自慢しなかった。父から譲られたと言っただけだ。文字盤の飴色も、ブレスの緩みも、そのままにしていた。私が惹かれたのはそこだった。40年の連続性が、金の輝きよりも先に伝わってきた。

681万円は、どう考えても大きな買い物だ。だが金無垢のデイデイトを検討する段階にいる人は、たいてい「あと何本買えるか」ではなく「これを誰に渡すか」を考え始めている。デイデイトが本当に向いているのは、その問いを持ち始めた人だ。

握手をする瞬間、名刺よりわずかに早く見えるのが袖口である。そこに何を置くか。デイデイトはその問いに対して、70年間ずっと同じ答えを出し続けてきた時計だ。

参考資料


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よくある質問

Q. ロレックス デイデイトの定価はいくらからですか?
2026年8月時点で、最も安いのはデイデイト36の18ctイエローゴールド(Ref.128238)で¥6,811,200です。上は40mmの950プラチナ(Ref.228236)が¥10,208,000、ダイヤモンドをセットしたホワイトゴールド(Ref.128399TBR)は¥15,328,500に達します。ステンレスモデルは存在しないため、これがデイデイトの入口価格です。同じロレックスでもオイスター パーペチュアル36は¥996,600ですから、桁が一つ違う世界だと考えてください。
Q. なぜデイデイトにはステンレスモデルがないのですか?
ロレックスがデイデイトを「貴金属専用のフラッグシップ」として設計し、その位置づけを70年間変えていないからです。曜日と日付を同時表示する機構そのものはデイトジャストの発展形ですが、鋼の実用時計はデイトジャスト(¥1,208,900〜)が担い、デイデイトは18ctゴールドと950プラチナだけで作られ続けています。スチールとゴールドのコンビ(ロレゾール)すら用意されていない点が、この線引きの徹底さを物語っています。
Q. デイデイトが「社長の時計」と呼ばれるのはなぜですか?
貴金属のみという素材構成と、歴代アメリカ大統領に愛用された歴史の二つが理由です。ブレスレットの正式名称が「プレジデント」であることも通称を後押ししました。ただしアイゼンハワー大統領が着けていたのは金無垢のデイトジャスト(Ref.6305)で、デイデイト発表の1956年より前の話です。大統領の時計=デイデイトというイメージは、ジョンソンやレーガンら後の世代で固まったものだと理解しておくと正確です。
Q. デイデイトは36mmと40mm、どちらを選ぶべきですか?
手首周りが16.5cm以下、あるいはスーツとダブルカフスが日常なら36mm。17cm以上でジャケット主体、時計に存在感を求めるなら40mmです。金の比重はスチールの約2倍あるため、同じ40mmでもサブマリーナとは別物の重量感になります。私自身は36mmを勧めます。デイデイトの本質は袖口に半分隠れている状態の品格であり、その佇まいが完成しているのは36mmだと考えているからです。
Q. デイデイトの中古は資産価値がありますか?
金相場の高騰で下値が大きく持ち上がっており、2026年7月末時点の中古平均相場は約719万円、前年比で3割前後の上昇です。ゴールドモデルは定価の7割以上で取引される例が多く、かつてのような大幅な定価割れは減りました。ただしダイヤモンドをセットした宝飾系は流行と個体差で査定が大きくぶれます。値上がり益を狙うのではなく、地金という下支えがある時計だと捉えるのが健全です。

About the author

川村 篤志

時計評論家 / コレクター歴30年・機械式時計 所有歴30年・40ブランド以上

機械式時計コレクター。所有歴のあるブランドは40以上、現役で稼働している手持ちは20本前後。雑誌寄稿100本超。「投機ではなく所有」を語る数少ない評論家。

Editor's note

編集後記とエッセイは、note で。

サイト本編に書ききれなかった編集現場の話、取材で出会った職人たちのエピソード、執筆陣の30年・20年の所有歴。 サイトとは別の温度の話を、note でゆっくり綴っています。

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